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蒼穹の狭間で  作者: 藍原ソラ
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5.決戦前夜(1)

 魔物を警戒しつつ森の中を歩いていた慧が、ふいに口を開く。

「……春蘭」

 視線は前を向いたまま。けれどどこか緊張した慧の声音に、春蘭も視線は動かさないまま応える。

「はい」

「多分、だけど……つけられてる」

 その言葉に、春蘭は一瞬だけ目を丸くした後、こくんと頷いた。

「そう、ですか……。黒李にとって、私達をつけるのが雅ちゃんに辿り着く唯一の道なんでしょう。ここは神域ですから、いくら黒李といえども雅ちゃんの気配は掴めないはずです。……慧君、黒李の気配が分かるようになったんですか?」

 昨日黒李に待ち伏せをされた時は、分からなかったはずだ。

 春蘭には、未だ黒李の気配は掴めない。驚きが少ないのは、半ば予想していた事態だからに過ぎない。

 そう思って春蘭が尋ねれば、慧は困ったように眉をしかめた。

「……何となく、かな。嫌な感じがするというか……曖昧な感覚なんだけど。……あいつは、雅を狙っているからな。俺達を見張るのが一番手っ取り早いって考えるんじゃないかと思って」

 総合的に黒李がつけてきていると判断したようだが、慧の力がどんどんと強まっているのは間違いないだろうと、春蘭は思う。

 傍にいれば、分かる。慧の魂の輝きが少しづつ強くなっているのが。

「ここで……黒李を迎え撃とうと思う」

 慧の言葉に、春蘭は思わず慧に視線を向けたが、慧は前を見たままだ。視線が交わることはない。

「あいつを連れて行くわけにはいかない」

 前方を見据えたままはっきりと紡がれたその言葉に、春蘭は微笑む。

 村の守護役として戦っていた頃よりも危険に身を置いている現状だし、昨日の状態を考えれば、春蘭達が黒李に勝つことはまだ難しいだろう。けれど、慧の顔に迷いはない。

 己の中でやらなければならないことがきちんと定まっているからだろう。

 そして、それは春蘭も同じだった。

「……そうですね。今度こそ、守らなきゃですよね。雅ちゃんを」

 春蘭がぴたりと立ち止まれば、慧も薄く笑みを浮かべて足を止めた。

「……だな」

 そうして勢いよく振り向くと、慧は声を張り上げる。その右手には、いつの間にか草薙剣が握られていた。

「……出て来い! 黒李!」

 慧の鋭い声が森に響く。ふと、濃くなった闇の気配に、春蘭は反射的に肩を竦ませた。

「……ばれていたか。もしかしたら、気付かれるかもしれないとは思っていたが……」

 数十メートル後ろの木陰から、黒李がすっと姿を現した。春蘭は袖口から数枚の札を取り出して、構える。

 気配を消すことをやめた黒李の威圧感は相変わらず凄まじいが、不意をつかれた昨日ほどの恐怖はない。

「大人しく案内してくれる気は……ないか」

 淡々と呟く黒李の真意がどこにあるのか、春蘭には分からなかった。春蘭はきっと黒李を睨み付ける。

「当然です。……雅ちゃんに手出しはさせませんよ!」

「……そういうことだ」

 少しだけ春蘭より前に出て、慧が剣を構えた。

「馬鹿なことをする。……昨日、俺に歯が立たなかったばかりではないか。こんな場所で命を捨てることもないだろうに」

「……そっちこそ、馬鹿言ってるじゃないか。雅の所に辿り着けば、俺達は邪魔になる。……どうせ殺すつもりだったんだろう?」

 その言葉に、黒李は薄く笑う。慧も不敵に笑みを返した。

「まあ、簡単に殺されてやるつもりはないけどな」

「昨日の今日で、よくそこまで大口を叩けたものだな。……ならば、ゆくぞ!」

 瞬間、黒李の力が爆発し、先制攻撃とばかりに炎を放つ。昨日は身動きすら取れなかったが、今日は違うと春蘭は札を投げ打つ。

「我、汝に請い願う! その御名のもと、我らに大いなる守りを授けたまえ! ――護神!」

 即座に春蘭が展開させた不可視の壁が、黒李が放った炎を霧散させた。

 その炎を縫うように、慧が黒李に接近する。黒李は小さく口笛を吹くと、手の中にいつか暗奈が使用したのと似たような黒い剣を出現させ、慧の一撃を受ける。

 鈍い金属音が、森の中に響く。

 素早い攻防を視線だけで追いながら、春蘭は次の札を構えた。さすがにあの中に割って入るような戦闘技術は、春蘭にはない。

 慧が間合いを取るために一歩下がった瞬間を見計らい、口の中で唱えていた神力を発動させる。

「……炎神!」

 同時に放った札が炎の鳥へと変じて、まっすぐに黒李に向かう。不意をつかれたはずの黒李はにやりと笑った。そして。

「……風よ!」

 短い呪文とともに、剣を振るう。魔力の風と剣圧が春蘭の炎をその場に押し留めた。その隙に、黒李はその場から飛び退きつつ、さらに炎を放つ。威力は低そうだが、慧と春蘭二人を飲み込めそうなほどに範囲が広い。

 そして、お互いの防御魔法も間に合いそうにないと、春蘭が目を閉じて息を詰めた、瞬間。

 その声が響いた。

「……シールド!!」

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