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蒼穹の狭間で  作者: 藍原ソラ
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4.真実を知るもの(10)

 力強く陰羅打倒を宣言した雅だったが、ふと首を傾げる。

「……でも、本当にあたしに倒せるんですか? 昨日、陰羅の式の黒李ってヤツに惨敗したばっかりなんですけど」

 それはもう見事に。

 真面目な顔でそう言うと、晄潤は苦笑した。

「いや、笑い事じゃないですよ。大問題です。黒李に勝てないのに陰羅に勝てるわけないじゃん、っていう」

「大丈夫ですよ。あなたの力はまだ完全に目覚めたわけではありませんから。……迷いが消えたなら大丈夫です」

「……完全じゃ、ない?」

 晄潤が小さく頷いた。

「ええ。起き抜けにいきなり全開で動ける人なんていないでしょう?」

「……そうですね。その例えはどうかと思いますけど……」

 分かりやすくはあったが、威厳も何もない。雅は思わず乾いた笑いを浮かべた。

「でも、そうなんですよ。光鈴の力は強いですから。少しずつ身体に馴染んでいくように、勾玉が調節してるんです」

「……この、勾玉が?」

「はい。八尺瓊勾玉は力を守り、開放する守り石ですから」

「ああ……春蘭がそんなことを言っていたような……」

 胡蓮を旅立った時を思い出して、雅は微かに目を細めた。この地に召喚されてから一週間程しか経っていないのに遠い昔のことのようだ。

「そうです。地界の者はそのままでは魂に眠る力を引き出すことが出来ない。無理に引き出そうとすれば、魂とそれから器である身体が傷ついてしまいます。勾玉は力を引き出すと同時に、力を調整して使用者を守るよう、光鈴の術がかけられているんです」

 そう言われて、雅は首から掛けていた勾玉を手に取った。深く澄んだ青の石。ここに召喚される日の朝、夢見た女性の瞳と同じ色だ。

 あの人が、きっと光鈴なのだろう。雅はぎゅっと勾玉を握り締める。

「身体が力になれていない状態では、力は抑制されます。迷いがあれば、抑制は更に強くなる。……使える力の強さは器の資質に左右されると言われていますが、光鈴の魂を受け継ぐことが出来るのですから問題はないでしょう」

 どこか事務的に晄潤はそう告げる。雅は小さく頷いた。

「はい。……でも、器の資質? ですか?」

「そうです。例えば光鈴の力がバケツ一杯の水だとします。それを受け止める側の器の資質がこのカップほどしかないと、使える力は……」

 そう言って晄潤が掲げて見せたカップを見て、雅はなるほどと息をついた。これでは、どれだけ大きな力を持っていても意味がない。

「けれど、光鈴の力をその身に受け入れている時点で、資質の点は問題ないはずです。あとは、身体と魂がどれだけ力に馴染んでいるか。そして、迷いなくその力を行使できるか、です」

「……はい」

 雅は大きく頷く。

「それに……力の馴染み具合も大丈夫だと思いますよ。私は、光鈴の力で生まれましたから、私が傍にいるだけでも大分違うはずです。……事実、雅から感じる力は強まっているようですし」

「そう、なんですか?」

「はい。それにここは光鈴とも馴染み深い土地ですからね。縁ある地にいれば、それだけ順応も速まるものです。……だから、集中すれば分かるはずですよ」

「え?」

 雅はきょとんと瞬いた後、試しに目を閉じてみた。

 そうして、よく知る二つの気配が少しずつこの場所に近づいているのに気付いて、雅は目を開ける。

「慧、春蘭!」

 思わずそう叫んでから、もうひとつの小さな気配に気付く。背筋を走る悪寒に、雅は表情を険しくした。

「それから、この気配……黒李?」

 この場所を目指している時にはまったく気付かなかったはずの気配を察知して、雅は両手を握り締める。

「黒李……すごく、力が小さい。しかも、動きが……慧と春蘭をつけてるの?」

 晄潤もすっと目を細めると、頷いた。

「そうでしょうね。この場所は陰羅に気付かれないよう、光鈴の術がかけられた守られた場所なんです。ここにいる限りは居場所を知ることは出来ません。だから、あなたの仲間の二人をつけているのでしょう。……巫女ならば、ここへ辿り着くことが出来ますから。そうして、雅を殺すつもりなんでしょうね」

 雅は唇を小さく噛むと、顔を上げた。

 慧と春蘭は、つけられていることに気付いていない可能性が高い。

 ここに辿り着くまでは安全だろうが、ここを発見した瞬間、黒李に攻撃されないとも限らない。

 二人が危ない。

「……あたし、行ってきます!」

 そして、晄潤が頷くのを確認しながら雅は立ち上がり、扉へと駆け出したのだった。

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