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蒼穹の狭間で  作者: 藍原ソラ
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4.真実を知るもの(1)

 闇に満たされた広間で、男はすっと目を細めた。

 力に目覚めた光鈴。彼には、彼女の居場所が手に取るように分かった。光と闇。相反する存在。だが、正反対の力だからこそ、分かる。

「……暁安。国立図書館、か……」

 そう言った彼の口元に、冷たい笑みが浮かぶ。光鈴は順調に陰羅に近づいているらしい。

 今頃、国立図書館で伝説の真実でも知っている頃合だろう。

 真実を知った瞬間、光鈴がどんな反応を示したのかは、気配の揺れ具合でおおよそ分かった。

 激しく動揺した力の気配。

 陰羅は愉悦の笑みを浮かべる。

 世界を闇で満たす。それが、陰羅の生まれた意味だ。

 だが、何度も光鈴に阻まれ、その目的は未だ達成できていない。光鈴を倒したいと、そう思う。

 ならば、光鈴に手を出さずに、光鈴が力に目覚める前にさっさと世界を滅ぼしてしまえばいいのかもしれないが――それでは、意味がないのだ。

 光の力に目覚めた光鈴を倒さなければ、意味がない。光が闇に堕ちなければ、意味がない。

 光が闇に堕ちた瞬間――世界も、闇に堕ちるのだ。

 だから、陰羅は光鈴に式を差し向ける。光が強くなるように。光が強くなればなるほど、闇に落ちた瞬間、世界が深い闇に包まれると知っているからだ。

 自身の黒髪を引き抜いた陰羅は、ふっと息を吹きかけた。暗奈を作った時よりも、心なし強めに。

 髪の毛が宙を舞い、はらりと床に落ちる。同時に、髪からどろりとした黒いものが生まれてしばらくうごめき、暗奈と同様、人の形をとった。

「名は……そうだな。黒李だ」

 顕現した黒髪に金色の瞳の二十代半ばの男に、陰羅は冷ややかな笑みと共に名を与える。

 男は滑らかな動作で床に膝をつき、頭を垂れた。

「行って来い、黒李。……光鈴の魂に絶望を刻んでこい」

「は。……かしこまりました。陰羅様」

 低い声の返答に、陰羅は満足気な笑みを浮かべる。

「黒李は手強いぞ。……さあ、どうする? 光鈴」

 低い愉悦の笑いが、闇の中で響いた。


* * *


 晄潤の元に向かうことを決めたものの、中途半端な時間だったため暁安でさらにもう一晩を過ごした雅達は、明朝に目的の場所に向けて国立図書館を出発した。

 通称・命の山。本来は蓬莱山という名称らしいが、今では正式な名前で呼ぶ者の方が少ないらしい。

 そんな春蘭の説明を聞きながら、雅は森の中を歩く。

 命の山。全ての命が還る場所。光鈴の祭壇があったというその場所は、天界の大地の中央部分にあるとのことだ。まさしく、世界の中心というわけだ。

 そんなことを思いながら、雅はそわそわと周囲を見回した。何だか気分が落ち着かない。

 これから晄潤の所に向かうのだから落ち着かない、というのはあるだろう。けれど、それだけじゃないような気がする。

 朝から、妙に嫌な予感がするのだ。

 そして天界に来てこの方、その嫌な予感が外れたことはない。非常に残念なことに。

「……うーん」

「何だ? どうかしたか?」

 雅の小さな呟きを聞き逃さなかったらしい。少し前を歩いていた慧が、肩越しに振り返ってそう尋ねてくる。

「えー? うん……」

 曖昧に返事をすると、雅の横を歩いていた春蘭も首を傾げた。

「雅ちゃん?」

 二人の視線を受けて、雅は困ったように頬を掻いた。

「いや、あのね?」

 自分でも感覚的なものだし根拠もないから、非常に伝えづらい。しかし、伝えなければならないものなのだろうと思う。

 杞憂ですめば、それはそれでいいのだ。予感が外れても、怒るような二人でもない。

「……何か、いやーな予感が、するんだよねぇ」

 雅の言葉に、慧も春蘭も同時に眉をしかめた。

「嫌な予感、ですか……」

「それは……」

「しかもさ……。暗奈と会った日も、似たような嫌な予感、感じてたんだよね……」

 その言葉に、慧と春蘭の表情がさらに曇る。

「警戒しておいた方がいいかもしれませんね……」

 その言葉に応じたのは、雅でも慧でもなかった。

「……その必要はない」

 低い低い声に、慧が弾かれたように右手横に顔を向ける。

 青々と生い茂る木々の中に、一人の男が立っていた。二十代半ばほどの男の髪色と瞳を見た雅は、息を呑んで目を見開く。

 その男は、陰羅の式であった暗奈と同じ、黒い髪に金色の瞳を持っていた。

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