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蒼穹の狭間で  作者: 藍原ソラ
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3.伝説の真実(7)

「みっ雅ちゃぁぁん……!」

 慧と共に戻った雅を視界に入れた瞬間。春蘭はぼろぼろと泣き崩れた。

「あー、ごめんね、春蘭。心配かけて。ただいまー」

 見事な泣きっぷりに苦笑を浮かべつつ、雅は春蘭の頭を撫でる。

「なん、で……雅ちゃんが、謝るんですか? 謝るのは、謝らなきゃいけないのは、私、ですぅ」

 ぐじぐじと泣きながらもそう言う春蘭に、雅は首を傾げた。

「え?」

「私が、雅ちゃんを、ここに召喚したんです。私が、召喚しなければ……っ」

 その言葉に、雅は淡く苦笑した。

 召喚された時、春蘭は雅のことを光鈴の生まれ変わりとして見ていた。その時の彼女の心境のままなら、きっとこんな言葉は言わなかっただろうと思う。

 春蘭はちゃんと等身大の雅を見てくれているのだ。だから、こんな風に心配して、泣いて、自分を責めている。

 不謹慎かもしれないが、それが嬉しくて雅は小さく微笑む。

「ごめ、なさい……、泣きたいのは、雅ちゃんなのにっ……。私ばっかり泣いて……!」

 そう言いながら手の甲で涙を拭う。だが、涙は止まる気配を見せない。春蘭は服の袖で強く目をこすった。

「あ、こら! そんな強くこすったら、赤くなっちゃうでしょっ!」

 目は泣き続けているせいですでに真っ赤だが、こすったせいで頬の辺りまで赤くなっている。

「あ~あ。……後で冷やしなさいよ~」

「うう。……はい」

 そんなやりとりを、慧は苦笑気味に眺めている。その微妙な表情に気付いた雅は、微かに眉をしかめた。

「……何よ、慧。その顔」

「いや。……友達同士っていうよりは、何か姉妹みたいだな、と」

 小さく笑って言われて、雅と春蘭は思わず顔を見合わせる。春蘭が恥ずかしそうに頬を染めた。

「……いや、むしろ何歳よ? あんた達」

「俺は十六歳。春蘭ももうすぐ十六、だよな?」

「はい」

「え? ってことは……同い年ぃっ!?」

 雅は驚きに目を見開いた。

 何となく、慧は年上で春蘭は年下だと思っていたのだ。

「……らしいな」

 三人は何となく苦笑を浮かべてから、それぞれ真剣な顔つきになった。

「……ね。春蘭」

「はい」

 呼ばれた春蘭が居住まいを正す。何を言われるのも覚悟しているような、そんな表情だ。

「その本の著者……晄潤の居場所って分かる?」

 雅のその言葉に、春蘭は驚いたような表情をして、数度瞬く。

「晄潤様の居場所、ですか?」

「うん。……もちろん、この本を書いた当人じゃないって、分かってるよ? けど、何も知らないってことはないと思う。だから……会ってみたい。会って……話を聞きたい」

「話……」

 春蘭がぽかんとした表情のまま、雅の言葉を繰り返す。雅は小さく頷いた。

「うん。そうしないと、進めないんだよね。……前にも、後ろにも」

 立ち向かうことも、逃げることも出来ない。今の中途半端な状態が、雅は一番嫌だった。死の運命を受け入れることは到底出来ないと、それだけは分かっているけれど、逆を言えば自分の心のうちで確かなものはそれだけだ。

「……帰らない、んですか?」

 春蘭は、不思議そうな表情で雅を見ていた。

 雅に責められることも、地界に帰せと言われることも覚悟していたに違いない。

「……うん。正直、怖いし。ふざけるなよって思うし。死にたくないし、とか色々思うけど……。あんた達二人を放って逃げて、それですっきりするかって言うと、違うんだよね」

「雅、ちゃん……」

「逃げようと思えば、逃げれると思うし、逃げたいって気持ちもあるよ? ……でも、絶対後悔する。だから、晄潤と会いたい。会って、話を聞いて……死ななくてもすむ方法あるんじゃないの!? って問い詰めたりもしたいし」

 雅の最後の言葉に慧が小さく笑い、春蘭が瞳を瞬かせた。

「お、お手柔らかに……お願いしますよ?」

 そう言って春蘭が笑う。

「……場合によるわね」

 真顔でそう言えば、春蘭は再び小さく笑って、それから表情を引き締めた。

「晄潤様は、ある山の麓に暮らしていると、聞いたことがあります」

「ある山?」

「はい。通称は命の山。……遥か昔、光の神・光鈴の祭壇があり、全ての命が還る場所、と言われている山です」

 すなわち、光鈴縁の地というわけだ。雅は春蘭の言葉に、すっと目を細めたのだった。

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