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蒼穹の狭間で  作者: 藍原ソラ
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2.目覚めの時(5)

 剣の切っ先は、雅と雅を庇う春蘭の方にその先端を向けて飛んでいく。慧の叫びに春蘭はくるりと振り返って、雅を力一杯横に突き飛ばすと、その反動を利用して自分も横に跳んだ。

 そのすぐ後に、今まで二人がいた場所を剣が切り裂いていった。まさしく間一髪だ。春蘭は思わずほっと息をつきかけるが、気を抜くにはまだ早い。戦いはまだ終わっていない。

「隙あり、ですわ」

 暗奈は剣を追うように走り出していた。腰だめに構えた剣の切っ先は、雅に向いている。雅はそれを呆然と眺めていて、避けようとする様子がない。

「くっ!」

 慧が舌打ちをして駆け出すが、暗奈の方が雅に近い位置にいる。どう考えても、間に合う距離ではなかった。

 春蘭も無理に飛び退いた反動で、咄嗟に動くことが出来ていない。

 何とか暗奈の動きを妨害しようと投げつけた折れた剣の柄も、こちらをちらりとも見ない暗奈にあっさりと叩き落される。

 慧はきつく唇を噛んだ。

 魔法は使えない。この位置では、雅を巻き込む可能性があるからだ。

 せめて、剣があれば。そうすれば、雅を守ることが出来るのに。

 思わず、守ると決めた地界の少女の名を呼んでいた。同時に暗奈も叫ぶ。

「雅っ!」

「光鈴! これで終わりですわ!!」

 こんなところで、彼女を死なせるわけにはいかない。

 そう強く思った瞬間。慧の右手がありえないほどの熱を持った。


* * *


 雅の視界には、全てがゆっくりと映っていた。

 暗奈と名乗った妖艶な雰囲気の女が、この場に似合わない艶やかな笑みを浮かべて、雅に向かってくる。その手に、暗黒色の剣を持って。

 そんな場面だというのに、暗奈があまりに綺麗に笑うから、何だか現実感がない。夢の中にいるような気分になる。

 雅の中の常識の範囲を超えてしまって、何が起こっているのかすら理解できなかった。ただ、暗奈の後を追う慧の表情が妙に切迫していて、それが酷く気にかかる。

「雅っ!」

「光鈴! これで終わりですわ!!」

 その言葉が、急に雅を現実に引き戻した。

 終わり。この場面においてその意味は死ぬということ。

 不意に背筋に氷塊が落ちたような寒気が走る。今朝感じた嫌な予感はこのことだったのだと気付いた。

「や……」

 死にたくない、と思った。こんなところで死にたくない。死ねない。

 一歩、後ずさる。だが、身体が動いたのはそこまでだ。暗奈の方が、どう考えても速い。

「いや……」

 そう呟いたのは、無意識だった。同時に、頭の中に低い女性の声が響く。

 ――……ならば、唱えろ。

 胸元の勾玉が強く熱を持ったことに、雅は気付かなかった。

「来ないで……!」

 ――……私の……光の力は、そなたと共にある。

 瞬間、脳裏に閃いた言葉を。雅は反射的に口にしていた。

「聖なる、かがり火。燃え上がる炎よ……!」

 慧がはっとして、後ろに跳び退る。

「……ブレイズ」

 何かを諳んじるかのようにどこか呆然と紡がれた術は。

 青白い炎を発生させ、雅に剣を突き立てる寸前だった暗奈を包む。

「ああああああああっ!」

 暗奈の甲高い悲鳴に、どこかぼうっとしていた雅はびくりと肩を震わせた。

「あ、たし……何を……?」

「くぅっ……! こ、こんな……! せめて、光鈴を道連れに……!」

 身体を焼かれながらも、暗奈が雅に向かって手を伸ばす。その動作に、雅がびくりと肩を震わせた。だが、その手が雅にかかる寸前、胸板を後ろから光り輝く刀身が貫いた。

「……させるか!」

 慧はそのまま剣を横に薙いだ。暗奈は悔しそうな表情を浮かべて、地面に倒れる。

「い……んら、さま……」

 そう呟いて虚空に伸ばされた手が、さあっと風に溶けた。人の身にありえないその様子に、春蘭が小さく眉をしかめる。

「……式?」

 その言葉と。

「あたし、は……や、だ……。いやぁっ!」

 雅の取り乱したような叫びは、ほとんど同時だった。

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