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蒼穹の狭間で  作者: 藍原ソラ
12/60

1.伝説の始まり(12)

 雅の宣言を、慧は神妙な顔で聞いている。

 思っていた以上に真面目な雰囲気を振り払うかのように、雅は笑って見せた。

「それに……陰羅とかいう失礼な奴には、一言言ってやんないと気がすまないし! こんなか弱い女子を狙うなんて何事よ! って」

 雅の言葉に、慧は一瞬目を丸くした後、小さく吹き出した。

「……そうだな」

 慧が見せる仄かな笑みに、何だか自分の思惑など慧には全てバレているような気分になるのはどうしてだろう。

「その目的が達成されるまで俺が守るから、安心しろ」

 雅の十六年という短い人生の中でも、ドラマや映画でしか聞いたことがないんじゃないかという言葉に、反射的に頬が赤くなる。まさか、同年代の男子にこんなセリフを言われる日が来ようとは思っても見なかった。

 何だか気恥ずかしくなって、雅は微かに俯いた。

「……お手数おかけします……」

 反射的に出てきた言葉は、そんな言葉だった。よく考えれば、自分はどちらかと言えば被害者なのだから、遠慮する必要もない気がするのだが。

 でも、自分が戦うことを決めた理由は、この世界の為ではないのだし、何だか悪いなと思ってしまう自分がいるのも、事実で。

 雅のその言葉に、慧が小さく微笑む。最初にも抱いた感想だが、大人びた笑みだなぁと思うのは比較対象が悪いのか。残念ながら判断がつかない。

 雅は気恥ずかしさを誤魔化すように小さく咳払いをすると、慧を見た。

「えっと……じゃあ、改めてよろしく。……慧君?」

「慧でいいよ。……こちらこそよろしくな。雅」

 慧は、雅を変に神様扱いしなかった。何だか、それが嬉しい。

 そんな会話を交わしているうちに稜の家に辿りつく。そこでは春蘭は最後の魔物を相手にしている所だった。周囲に民家があるために派手な力が使えず、時間がかかっているようだ。

 春蘭は指に挟んでいた札を魔物へと投じ、小さく印を切って力を解き放つ。

「……炎神!」

 すると、札が炎に包まれたかと思うと炎の鳥となって、魔物に襲い掛かった。聖なる炎は邪なる者を一瞬で灰と化す。慧が春蘭は優秀な巫女だと言っていたが、確かにそうらしい。

 まあ、雅にとっては魔法が使える時点ですでに別次元の話なのだが。

 そう思いながら、隣を歩く慧に視線だけ向ける。

「あれが……神の力?」

「そう。神魔法とか神力とか呼ばれているな。……春蘭、大丈夫か?」

 慧が僅かに歩調を速めて、春蘭に近づく。

「はい。こちらは大丈夫です。……あの、そちらは……」

 雅に対してどのように接すればいいのか分からないのだろう。複雑そうな視線を向ける春蘭に、雅は苦笑して手をぱたぱたと振った。

「こっちもだいじょーぶ。……全力疾走で疲れたけど」

 その時、目の前の家の戸が開き、中から稜が現れた。

「雅様、ご無事でしたか! 慧、春蘭も怪我はないな?」

 慧と春蘭がほぼ同時に頷く。雅も小さく頷きつつ口を開いた。

「大丈夫です。慧が助けてくれました」

 その言葉に、稜はほっと安堵の息をつき、それから表情を険しいものにした。

「雅様。先程の魔物の群れは、やはり……」

「あたしを狙った陰羅の手の者で確定みたいです。……残念ながら」

 その言葉に、春蘭が小さく息を呑んだのが分かった。

 雅はちらりと慧を見上げた。慧が小さく頷くのを視界の端に捕らえ、雅は稜に向き直る。自分の決意を伝えるために。

「……あたしには、やっぱり自分が神様の生まれ変わりだなんて信じられません。記憶があるわけでも、不思議な力があるわけでもないし。救ってくれって言われたって、この世界のこと何も知らないし。……けど、向こうから仕掛けてきたなら、話は別です」

 その言葉に、春蘭は目をぱちくりとさせた。雅が何を言いたいのか分からないのだろう。稜は黙したまま、雅を見つめている。

「あたしが狙われた時点で、この世界の危機じゃなくて、自分の危機になりますから。あたしには黙ってやられるような気はないですし……。だから、あたしは戦います。戦う力なんてないけど、それでも。この世界の為じゃなくって、自分の為に。伝説も使命も関係なく、自分の意思で。……それでもいいですか?」

 その言葉に、稜は柔らかな笑みを浮かべる。孫を見守る祖父のような、優しい眼差しだ。

「……それが、あなたの定めた道ならば」

 雅はこくんと頷くと、どこか呆けた様子の春蘭に向き直る。

「さて。春蘭?」

「は、はい! ……あ」

 反射的に返事をしてから、春蘭は気付いた。初めて、雅に名前を呼ばれたことに。

「これから、よろしくね?」

 そう言って笑う雅を、春蘭はしばし呆然と見つめて。それから満面の笑みを浮かべた。

「……はい! こちらこそよろしくお願いします! 雅ちゃん!」

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