紅月の王と猫と客人と
今回は一応、ユウ視点。でもほとんど会話文だらけ。
― 紅月乃館、謁見の間 ―
「こちらで我が王が首を長くしてお待ちです、お二方。」
『案内してくれてありがとうございました。ルナ女官』
「いえ、仕事ですので。今度からはあまり寄り道をなさらないでくださいね?蒼空の君様。といっても、蒼空の君様にはどれだけ言っても無駄なのでしょうが。」
「ひどいなぁ~。しかもオレだけとか・・・。」
ソラが苦笑しながら言う。
「自業自得でございましょう。日頃の御自らの行動を振り返って御覧なさいませ。それでは、私はこれで失礼致します。」
ルナ女官は俺たちに一礼して去って行った。
案内された部屋は、例えて言うなら旅館の大広間くらいはありそうな大きな部屋だった。床は木の板張りで、畳じゃないけれど。部屋の奥には紫色のカーテンが掛かっていて、風で時折たなびいている。部屋の入口の上には何故か、『紅・月・夜・空』って書かれてある木の札?板?が架かっていた。部屋の中央辺りには畳が一畳あり、畳の上には紫の座布団と肘掛?が置いてある。
そしてそこには、肘掛に片手を乗せ、膝に凛々しい黒猫を乗せて、その猫を愛おしそうに撫ぜている、とても長く豊かな黒髪の、紅い衣を纏った、どちらかと言えば、美しいというよりも可愛らしいといえる、大きな黒い眼が特徴的な美女が居た。
「おや、ようやっと来よったか。ようこそ。我が【紅月乃館】へ。急に呼び出してすまんのぅ、ソラとお客人。わらわはこの【月の国】月夜国の王兼月の猫族族長、黒猫 まいじゃ。」
「ところで、私が貴方たちを呼んだのは早朝だった筈なんだけど・・・。そして今は昼過ぎ。ちょっと遅すぎやしないかな?ん?普通に寄り道せずに来たらもう少し早く着くと思うんだけど・・・。ねぇ、何か言い訳ある、空将軍?私達、首を長くして、今か今かと待ってたんだけれど。ねぇ、・・・何か言うことない?蒼空の君?」
紅い衣の美女、改め、王、黒猫まいがソラを責める責める。
口調は静かに冷静に。でもにっこり笑いながら怒っている。
はっきり言ってかなり怖い。
「ごめんなさい!!ユウに街を案内してあげようと思って・・・。桃あげるから許してよ?」
ソラは王を窺がうようにそろそろと桃を一つ差し出す。
「(にこっ)・・・一個だけ?」
「うっ・・・、い、いや、もう一個あげるから・・・。」
ソラは仕方なく、もう一個桃を差し出す。
「わーい!!ありがとー!!・・・アロー、これ、厨に持って行って~!!」
王は空の差し出した桃に大喜び。最初の威厳のある雰囲気なんて最早微塵も感じられない。
王の呼ぶ声に、武官だろうか?入口に居た弓と矢を背負い、腰あたりまである灰色の髪を頭の上の方で交差した二つの小さな矢の形をした髪飾りで纏めて留めた、無表情の子供が入って来て、桃二つを受け取り無言で一礼して出て行った。
あれ?俺なんか、空気じゃね?
「(チクショー!!あとで家でたらふく食べようと自腹で買った桃なのに~!!(泣))」
「(ジロッ)何か言った?」
「いえ、なにも。」
「そう。」
「で、お客人。あなたの名前、ユウっていうの?」
『は、はい。俺の名前は夢旅 優。ユウと呼んでください。』
「わかったわ。先程も言ったけれど、私の名前は黒猫 まい。私のことは『まい』でいいわよ?よろしくね。ユウ」
『よろしくおねがいします。まいさん。』
「う~ん、さん付けはなんか奇妙な感じだけど、まぁいいか。で、こっちはユエ。」
まいさんは膝の上の黒猫を指して言う。
黒猫改め、ユエは紹介とともに背筋を伸ばして一礼してきた。猫なのに。
『あ、よろしくおねがいします?』
「ふふっ。で、今回ユウを呼んだのは、私の興味と【主】ノアからの伝言、そしてユウが元の世界へと帰る方法とかを言うためよ。」
『え!?俺、帰れるんですか!?早く教えてください!!その方法を!!』
「ちょっと、落ち着きなさい。その前に貴方は何故帰りたいの?何処に帰りたいの?」
王は歌うように問う。
『何故って・・・。あ、あれ・・・そういえば、何でだろう?何故か帰らなきゃって・・・・・。それに俺は・・・・・ダメだ。思い出せない。』
あれ?どうしてだ?
やっぱり記憶喪失?記憶がぼんやりっていうか、無い?
あれれ?可笑しいな。
この世界に着いて、ソラと話してた時はうっすらとでもあった気がするんだけれども……。今は全くと言っていいほど思い出せない。
「「だろうねぇ~」」
ソラと王が声をそろえて言う。
『まぁ、思い出せないのは仕方がない。考えても仕方がないし、そのうち思い出すのを気長に、気楽に待つよ。』
「ふ~ん。楽観的だねぇ~。意外と。」
『まぁ、それが俺の長所の一つだし。で、“だろうね”って何スカ?何か知ってるんですか?コレの理由を。』
「ええ。まぁ・・・」
「オレのほうはなんとなく・・・」
「聞きたい?貴方がここに何故来ることになったのか。どうやってこの世界に来たのか。貴方が帰る為の方法など。かなり長くなるのだけれど。・・・聞きたい?」
『はい。知っているならば教えてください。聞きたいです。』
「わかったわ。それじゃあ奥で椅子に座ってお茶を飲みながら話しましょう。」
『はい。』
「ソラ、貴方はその間、短時間でいいから仕事をしてきなさい。今日はその為にも貴方を呼んだの。」
「『にも』ってことは他にも何かあるの?まい」
「ええ。だけどそれはこちらの話が終わってからでもいいわ。だから終わったらまたここに来て。」
「わかった。それじゃあいってくる。・・・今日は何人残るかな~♪」
ソラは鼻歌を歌いながら足取り軽く出て行った。
『あの、まいさん・・・』
「ん?なにかな、ユウ君」
『ソラの仕事って・・・』
「ああ、軍の仕事よ。あれでも一応将軍だから。鍛錬とか兵の扱きとか、その相手とか。空が相手すると、周りが死屍累々となったりするんだけどね。」
『へ、へ~(コメントしづれぇぇえぇぇぇー)』
「あ、そこの通りすがりの女官!」
「わたしですか?」
「そう。あなた。奥にお茶とお菓子を持ってきて。三人分。よろしくね!」
「はい。かしこまりました。」
「それじゃ、奥へと参ろうか。」
まいさんは黒猫のユエを優しく抱いて、立ち上がり、奥の紫色のカーテンをくぐった。
俺も後に続いた。
お読み頂きありがとうございます。
ちょっとした設定。
アロー:弓と短剣の名手。無口無表情の子供。精霊の類。迅という狙撃の名手とともに【黒猫姫】黒猫まいの護衛兼補佐。
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遊月:なんか、ソラが書く度に不憫になっていってる気がする。なぜだろう?
ノア:う~~~ん。わかんない。何故だろうね?本当にこればっかりは不思議。そういえば、国王時代の話もいつの間にか不憫な感じになってたよね。あれは自業自得なんだろうけどさ。
遊月:そうそう。そうなんだよね~。いつの間にかそういう風になってて、いつの間にか仕事サボって宰相に怒られることになってた。ホント、吃驚。
ノア:あはははは。
遊月:さて、次は舞台がガラッと変わる?かも。