再会の喜びなんてありゃしません
蹴り潰したいのを我慢して、我慢して、……すっっっごい我慢して。栗の魔王に先導されて辿り着いたのは、生い茂った樹木に隠された洞窟だった。
「ランプとか、持って来て無いんだけどー」
と、入り口の前で私が言うと、まだ肩に乗っていた山ぶどうの魔王がぽんぽんと肩を叩いてきた。
「大丈夫ですよ。……多分」
「多分がつくくらいなら、いっそ言わないでいいよ……」
脱力して、私は呟いた。
そして、「とりあえず入るか」と呟いて、洞窟の中に足を一歩踏み入れた時だった。
ぱあっと急に周囲が明るくなったのだ。
「おわ。すっごい。勝手に火がついた!」
一体どういう仕掛けなのか、壁に掛けられた松明に自動的に火が灯ったのだ。
そう、それでようやく見る事ができた洞窟の中は、まるで神殿か何かのようだった。
白と灰色のマーブル模様の石で造られた壁が真っ直ぐに奥まで続き、床にも同じ色の石が敷き詰められている。
「ああ、なんて素敵! 流石は大魔王様の御座所ねぇっ」
足元のリンゴの魔王がくねくねと身悶えしながら叫ぶ。
「はあー。金掛けてそう〜」
「ちょっと、小娘っ。この壮麗さに対して言える事はそれだけなの!」
視線を鋭くしたリンゴの魔王が私の感想にケチを付けてくる。
「ふんっ。こちとらセンティス国のど田舎の田舎娘なもので! 壮麗さも優美さも無縁な、ん、で、す!」
高い位置から見下ろして、私はヤツに言ってやった。
自分で言っててちょっと虚しいが、真実だ。ロイド村にあるもっとも立派な建物は、学校か村役場なのだから(注:木造)。あ、村長さんの屋敷(兼業宿屋)でも可。
それを知ってか知らずか、リンゴの魔王は私の言葉にそれ以上返す事ができずに、きいきいと言いながら地団駄を踏んでいた。
「はあ〜。立派な佇まいですね〜」
なんて間の抜けた事を言うのは、肩に乗った山ぶどうの魔王だ。
「何? あんたら、ここに来たの初めてなの?」
意外だ。
あ、そう言えば、ここの場所も知らなかったんだっけ。
すると、山ぶどうの魔王は少し瞳を潤ませながら語った。
それ以上、涙(果汁)を零したら、許すまいぞ。……染み落しは重労働だ。
「そうなんです。栗の魔王殿以外の魔王たちはみんな今年生まれなんです。……え、ぷりぷりで美味しそう? もう〜、食べるならちょっとだけですよ〜」
恥じらって言うな!
イラっとしつつも私が無言でいると、魔王は先を続けた。
「でも、なんででしょうね。初めて来たのに、何故か懐かしい……。こうして魔王が五匹揃ったのも、何か意味のある事のような気がします」
灰色の廊下の先、いや、更にその先を見つめる様に、山ぶどうの魔王は遠い目をして言った。
……待て。今、五匹って言った?
山ぶどうの魔王、リンゴの魔王、栗の魔王。この場にいる魔王は三匹のはずだ。
「ご、五匹?」
すると、栗の魔王が私の疑問に答えた。
「…………………………………………あ、すみません。五匹いないと、ここ、入れないんです。ただの岩壁しか無いように見えるんです。…………………………………………言わなくて、本当、すみません」
とりあえず壁を蹴って落ち着いた私は、あと二匹を探すべく、床に視線を走らせた。
松明の明かりに照らされた空間にはいない。
それなら。ばっ、と勢い良く振り返る。
下草の間、緑色に囲まれて、……キノコがいた。
だるまさんが転んだをやっていて、固まったときのように、謎のポーズをとって立っている。
「……キノコの魔王な、の?」
私の語尾が疑問系になったのには理由がある。
目の前のキノコは、この間見た時よりも長くなっていたのだ。こう、上と下を掴んで引っ張った様に。
「ゆ、勇者様」
相変わらず小さい声は、そう呟いた。変わらないのは、その声とつぶらな瞳だけのようだ。
とてててて、と小さな足音をたててキノコの魔王は私に向かって駆け寄って来た。
「うわーん。僕、頑張ってウスキキヌガシャっ……」
噛んだ。
「「「「……………………」」」」
薄ら寒い沈黙が続く中、キノコの魔王は明後日の方角を向いて「えほんっ」と咳払いをした。
心機一転、やり直すらしい。
元の位置まで戻って、再び駆け出す。
「うわーん。僕、頑張ってウスキキヌガシャタケになりましたよぅ!」
……テイク2決定。
忘れられているかもしれませんが、キノコの魔王が目指すはキノコの女王『ウスキキヌガサタケ』です。笑。