デザートから昇格?
リンゴの魔王は、山ぶどうやキノコとは比べ物にならないくらい強烈な存在でした。
おもわず敬語が出てくるくらいに。
この魔王。八等分にされてウサギ形に切られていたのだが、フォークを自力で抜いた途端、あるポーズをとった。
某戦闘民族がパワーアップする時の様に、足を広げ、両腕を広げて肩の高さで拳(?)を作る。
「ふんっっっ!」
気合いを一つ放つと、何と! 皿の上のウサギリンゴたちが、集合したのだ。
どんな接着剤を使用したのか、ぴったりとくっついて、一個のリンゴに戻ってしまった。ちゃんと目と口と手足の位置も無難な場所に移動している。
こ、こええ〜。
いや、本当に怖かったのは、この後だ。
「あらん。一欠片多かったわ〜」
そう言うや、リンゴの魔王は自分の体から一欠片分を取り出して、ぽいっと投げたのだ。
かなり衝撃映像です。
べしゃり、と皿の上に戻されたリンゴの哀れさといったら無い。
っつーか、なんで皮まで全部戻っているんですか……?
……そうか、これが魔力か。そうだ、そう言う事なんだ。オネエさんの不思議なんかじゃ、絶対ないんだ!
一人で納得しようと頷く私に、いつの間にか近づいて来たリンゴの魔王は口を開いた。
ワンポイントは人差し指と一緒に立てられた小指かもしれない。
指あったんだ!?
「ちょっとぉ。アンタが勇者っていうんなら、ホラ、行くわよ! 早く準備しなさいぃ〜」
何処に?
唐突に言われて、意味がわからない私は、山ぶどうの魔王を見下ろした。
こっちの魔王も、どうやらリンゴの魔王のトンでも無い行動に驚いていたらしい。呆然と目を見開いていたのだが、私の視線を受けて、こちらに振り向いた。
「とか、言ってるけど。どこ行くの?」
聞けば、彼ははっとしたような顔をして、ぽんっと手を打った。
「そうです。勇者様には来て頂きたい場所があるのです!」
そうだそうだ、と一人で納得している。
ぼそぼそ言っているその台詞がところどころ漏れ聞こえる。
「今までの勇者様は……だから資格が……なくて、だから、…………今回なら…………」
意味わからん。
朝食を再開した私を横目で見ながら、リンゴの魔王はリンゴの魔王でぶつくさ言う。
「ったくぅ。ちょっと女に生まれたからってさぁ〜。いい気になってんじゃないわよぉ〜」
なってないし。
そんな話になった記憶が全く無いし。
私はカップに残っていたカフェオレをごくごく飲み干して、「ごちそうさまでした!」と席から立ち上がる。
そこに、母さんが声を掛けて来た。
「ああ、アイザ。今日は家の手伝いはいいわ」
「どどどどど、どうしたの!? 母さん!」
天変地異の前触れかもしれない。
職に就く前の人間は、家の事を手伝うのが鉄則だと言い切る母の予想外の台詞に、私は激しく動揺した。
熱だ。きっと熱があるに違いない!
慌てふためく私を見て、母さんは「やあねえ」と呆れていた。
「魔王たちが来いって言うからには、そろそろ魔王狩りも最終段階なんでしょ? だったら、とっとと片付けてらっしゃいって事よ」
フライパンを片手に持って腕を組むその姿は、こう言っている。
『今日中に片付けて、明日からきりきり働きなさい』
最終段階も何も、一昨日始まったばっかりですよ。とは、言えず。
私は大人しく聖剣を腰に下げて家を出た。
追い出されたに、近くありません?
ところで、山ぶどうじゃなくてリンゴを持って帰って来たらしき親父は、何処に行ったんだろう……。
山ぶどうの代わりにリンゴで許してもらえたのか、そこが問題です。
何故か次の魔王が出なかったので、続けて次話を投稿します。笑。