献上された獲物
夕刻、家に帰った私を出迎えたのは、満面の笑みの半白髪親父だった。
彼は意気揚々と、口を開く。
「おお、愛する娘アイザ! さあ、どんな魔王を狩って来たんだ? お父さんに見せて見なさい」
両手を差し出すから、そこに今日の獲物である猪を乗せた。
子ども(瓜坊)とはいえ、重いんだ、これが。
父親は、その剛毛に瞳を輝かせる。
「おお、猪の魔王かっ」
「いや。普通の猪。罠に掛かってたのをシメて持って来ただけ」
「……あ、そう。ちょっとハムとかにしちまうか」
猪の肉は固いからな〜。なんて言いながら、納屋の食肉解体場、兼加工場に持って行こうとする。
家を出る直前で、彼は足を止めて私を振り返った。
「結局魔王には会わなかったの?」
その口調は、「隣のケン君には会わなかったの?」とよく似ていた。ようするに軽い。
「まあ、キノコの魔王には会ったよ」
ぽりぽりと頭を掻きながら答える私も軽い軽い。
「なんで狩ってこないんだよ。父さん、久しぶりにキノコ鍋とかしたかったなあ……。母さんの好物だろう」
ぶーっと唇を尖らせても、可愛く無いぞ、親父。
「ヤマキイロホコリタケだったから」
ふっと遠くを見た後、父は口を開いた。
「そっか……。成熟する前だと食用になるんだけどなあ、あれ」
「もう、まるまると膨らんで、はじけ飛ぶ直前だったよ」
なにせコロコロと転がれる程だ。
「残念だ! 今度は食べられる魔王だといいな。じゃっ」
猪を肩に担ぎ、びしっと片手を上げて、父親は玄関を出て行った。
その背中に、私は呟く。
「魔王狩りっつーか、秋の味覚狩りなのか……?」
聖剣の最初の仕事は、猪を吊り下げる棒代わりだったとか、内緒にしておこう。
少なくとも旅には出ずに済みそうです。