圧勝ムードをそんな一転させないでくださーい
完全なる勝利ってヤツはどこらへんで決まるんだろうか?
そう思ったのは、玉座の肘掛けをぶっ壊した時だった。
ばきぃっと良い音を立てて壊れたそれは木製だったようで、木っ端が見事に吹っ飛んだ。
「おいっ! どれだけ我の玉座を壊せば気が済むんだ!」
焦る大魔王の声に気が付いて彼を見下ろすと、青白い顔をして残っている方の肘掛けを左手で握りしめていた。
一応冷静さを保っていた私は、ボディへの攻撃はしないであげていた。顔も勿体無いもんね。
優しいなー。自分。
代わりに大魔王の座る玉座を殴ったり蹴ったりして、大きさを三分の二くらいまでにしてやった。
ああ。もちろん背もたれは彼の頭の形に残ってるよ。
そして、親切に問いに答えてあげる。
優しいなー。自分。
「そうだね。気が済むまで、かなっ」
そう言って大魔王の首の真横を振り抜く。
石盤割り連続五十枚の記録保持者を舐めんなよ!
そうやって破壊活動に勤しんでいると、背後では壁に一列に張り付いた魔王たちが「ぎゃあー!」とか「ひいー!」とか叫んでいる。
そろそろ進退極まって来た(私が壊す場所が無くなって来たから)大魔王は「くっ」と呻き声をあげて、魔王たちに手の平を向けた。
「は? なにやって……」
突然の奇妙な行動に私が首を傾げると、彼の手の平の周囲が光を放ち、ゆらりと陽炎の様に揺れた。
どんどん光は大きくなっていく。
はっと気がついて、私は後ろを振り向く。
すると同じような光を放つ魔王たちが右から順に光を失って、ころん、ころん、と床に身を投げ出していった。
目も口も手足も無くなって、ぴくりとも動かない。
「あ、あんた、何したのっ」
慌てて大魔王に詰め寄ると、彼の手の平の輝きがその奥に吸い込まれる様に消えた。
さっきまで姦しく騒いでいた魔王たちの変化に動揺する私とは対照的に、大魔王は冷静に言った。
「あれらは我の為に集めた魔力で動いていたのだ。その魔力を奪ったまでだ」
「魔力……?」
きょとん、と瞬く私に、なにやら魔力と共に余裕を取り戻したらしい大魔王は悠然とした態度で語った。
「勇者の封印には穴が幾つかあった。そのうちの一つが我が魔力を収集することだ」
彼が語るには、自然の中にも幾らかの魔力があるらしい。と言うか、生物の発する精気を魔力として変換する事が、この大魔王には出来るらしいのだ。
だから彼はこの二千と二十二年の間にその精気を集めて、自身の魔力として取り込んできたそうだ。
「魔王とは要するに、我に植物の精気を持って来るための運び人だ。まあ、一定量の精気、引いては魔力が集まらねば動かせぬのだがな」
……麻薬の運び屋のような言い方だなあ。
んん?
「ってことは、何? 豊作の年にしか魔王たちが出てこないのって、そうゆう事?」
「そういう事だ」
偉そうに大魔王は頷いた。
と、言う事は、だ。歴代の勇者たちがやってきた『魔王狩り』は一応大魔王の野望を邪魔して来た事になるのか……。
「一応、うちの親父は勇者の仕事してたんだね。ウルトラ地味だけど」
そう言ってやると、大魔王は渋い顔をした。
詰まるところ、彼がやっている事もウルトラ地味だという話になるからだろう。
「それにしても、なんで植物ばっかり?」
聞くと、またしても大魔王の額に深い皺が刻まれた。
「勇者が決めたのだ。我が操れるのは『弱き者』だけとな」
どうやら動物に魔力を与えると、魔物化してしまうらしい。そりゃ駄目だ。裏山が危険地帯になってしまう。
…………待てよ。『勇者が決めた』?
ふと、ある考えに思い至った私は、同情でいっぱいの視線を大魔王に向けてしまった。ついつい、ね。
「あのさ、それ……」
「なんだ?」
「あんた、初代勇者にからかわれたんだよ」
私の一言に、ぴたり、と大魔王の動きが止まった。
「だってさ。本気であんたの事封印する気なら、魔力なんか注げないようにするじゃない」
さーっと血の気が引いていく音が聞こえた気がした。
「ちまちまちまちま、植物の魔王使って魔力を集めるあんたの事を想像しながら、大笑いしてたんじゃない?」
あ。余計な一言を言ったかも、と思ったが後の祭りだ。
二千と二十二年、封印の解放を目指してせせこましく、(ある意味)無駄な努力を続けて来た彼の心境や、如何に。
硬直してしまった大魔王に、私は渋々話しかける。
「あんたさ、何やって封印されたの?」
「……人間共を滅ぼそうと思った」
「あ〜。なんで?」
「……やってみたかったから」
「んで、勇者に封印された、と」
こくん、と彼は首を縦に振った。
なんだろう。人間を滅ぼすとか物騒な話してるのに、この脱力感。
「ん〜と。封印解けたら何すんの?」
「……人間共を滅ぼそうかと」
「…………でも、魔物って、もう絶滅しちゃったよ」
つまり彼は人間を滅ぼしても、魔物作りを一から始めないといけないのだ。
「…………………………………………えっ?」
えっ、って、知らなかったの!?
「…………………………………………」
びみょ〜な沈黙が室内に流れる。
それを破ったのは、物凄く場違いに暢気な声だった。
「あんの〜」