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魔王狩り  作者: 界軌
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終わりにしたい始まり


 成犬、じゃないや、聖剣を渡されて、「さあ、魔王狩りに行ってこーい!」と家を追い出されたら、貴方はどう思うだろう。


 一、使命感に燃えて張り切って旅に出る


 二、今はやりのチート能力(?)で一瞬にして全てを終わらせる


 三、疑問を抱きつつもなんだか流されて旅に出る


 私の場合は大違い。


 行ってこい、と言ったのは白髪の混ざり始めた父親で、そもそも聖剣は布に包まれて物置にずっと置いてあった(子どもの頃はチャンバラして遊んでいた)棒だ。いや、布外したらちゃんと剣の形してたけど。

 

 それで今進んでいる道が、家の裏の山の中ってどうよ? どうなのよ? 結局三のコース?


 膝丈に伸びた下草を蹴り飛ばすようにしながら、獣道とも言えない道を、私は歩いていた。


 一応、聖剣を腰に帯びているけど、何の役にたつというのか。


「そうだ、そもそも『魔王狩り』ってなにさ……」


 一人、首を傾げる。


 だってそうだろう。魔王ってのは、この世の悪者を束ねる悪の親玉だろう。一人だろう。


 それで行くと、『狩り』という言葉は複数いる獲物を捕りに行く時に使う言葉なんだから、こんな可笑しい事は無い。


 ……もう、適当に山ん中歩いて帰ろうかな。


 そんな風に投げやりに考えていた頃だった。


 小さな、本当に小さな声が足元から掛けられた。


「……あのぅ、あのぅ。……勇者様ですよねぇ」


 初めは気付かず、女にしては長いと褒められる足をすいすい動かして前に進んでいった。


 しかしヤツは諦めなかった。


「……あのぅ、あのぅ。……勇者様ですよねぇ」


 一瞬、耳に何か入った様な気がして私は足を止めた。


 これでも山育ち。自給自足は当たり前。そんな環境で育ったのだから、獣の気配には割と敏感な方だ。


 周囲を機敏な動きで見渡すが、何もいない。


 気のせいか……。


 そして再び歩き始めた私の前に、ヤツは、捨て身の行動に出た。


 すなわち、足元に転がり出て来たのだ。


「っうわ!」


 私が驚きの声を上げたのは二つの理由からだ。


 一つ目、動く筈の無いものが動いていたから。


 二つ目、小さいから踏みそうになったから。


 私の目の前に転がり出て来たのは、黄土色の丸いフォルムの、キノコだった。


 木の子と書いても、茸と書いてもいい。


 キノコだった。


 しかも、ご丁寧に目と口がある。鼻はどうした。


 そのキノコは、黒いつぶらな瞳で私を見上げ、こう言った。


「初めまして、勇者様。僕がキノコの魔王です!」


 すっげぇ小っさい声で。


 私の返答はと言えば、こうだ。


「いや、キノコでしょ。それも、ヤマキイロホコリタケ」


「その通りです。さすが勇者様です!」


 やたら嬉しそうにヤマキイロホコリタケは両手を叩いた。


 ……両手?!


 細い、棒人間のそれみたいな手がちゃんとあった。足もそれに然り。


 キノコは嬉しそうだった表情から、突然、はっとしたように動きを止めた。それから徐々に両手を体の横に下ろして、(多分)深刻そうな顔をした。


 まあ、口が下三角▽から真一文字に変わっただけですが。


 やがて重々しく口を開いた。


「勇者様。僕はキノコの魔王です。貴女が倒すべき敵です」


 両手を一杯に開いて、精一杯の自己主張を行う。


「さあ、一思いに殺っちゃって下さい!!」


 唐突に、喋るキノコに自分を倒せと言われた私の気持ちを理解してくれる人はいるのだろうか。いや、いない。


 けれど、ここはきちんと意思表示をするべきだろう。


「心の底からお断りだ」


 キノコは、その小さな瞳を目一杯開いた。


「何故です!」


 身を乗り出して、不満を表す。


 だから私はきちんと説明してやった。


「だって、あんたヤマキイロホコリタケじゃない」


「そうですが、何か?!」


 どうも理解できなかったらしい。


「……ヤマキイロホコリタケだよ?」


 漢字にするとこうだ。山、黄色、埃、茸。


 山地に生息し、黄色というか黄土色をしていて、そしてそのふっくらと丸い身の内に、大量の胞子を溜め込んでいるのだ。


「昔さあ、畑に大量に生えちゃって。駆除した時にうっかり割っちゃったんだよね。そうすると、あんたら凄い胞子だすじゃない? あの、きな粉みたいなのを、私は大量に吸っちゃったの」


 内臓にキノコが生えるのではないかと、一ヶ月は戦々恐々としたものだ。


 きな粉好きの皆さんには申し訳ないが、あれはかなり凄まじい。味の問題では無いのだ、粉塵の細かさの問題なのだ。避けようが無い、恐ろしい細かさなのだ!


「で、では、私を倒す事は出来ないと仰るのですか!」


「切ったら出るじゃん、胞子が」


 腰の聖剣が急に重くなった気がした。聖剣自身も胞子まみれは嫌なのかもしれない。


 因みに、畑のキノコはどうしたかというと、深く掘った穴に全て埋めました。……また出て来たらどうしよう。


「そ、そんな……。魔王として生まれてこの方、勇者様に倒される事だけを夢見て生きて来たと言うのに! 一体、僕は一体これからどうすれば……」


 うちひしがれ、地面に伏せてしまったキノコに、私は同情心など湧きもしなかった。


 このまま帰ろう、と横歩きに進んでいく。


 ところがその気配を察したのか、キノコが顔を上げた。


 その瞳には潤むものがある。


 キノコって以外と水分があるんだなー。なんて考えていると、キノコは声を張り上げた。


「では、では、どうすれば僕を狩って頂けるんですか!」


 この場を切り抜けるために、私は考えた。


 何を置いても、何故か『狩り』という言葉が頭から離れず。つい、出来心でこう言ってしまった。


「じゃあさ、ウスキキヌガサタケとかになればいいんじゃない。そしたら狩ってあげるよ」


 キノコの女王と呼ばれる、希少価値の高い高級食材だ。高く売れるに違いない。


 言ってから気がついたのだけれど、キノコって自力で種類なんか変えられないよ、ね?


 けれど、足元のキノコの考えは違ったらしい。


 どんな光明を見出したと言うのか、私の言葉に、ぱああっと表情を明るくした。


 への字だった口がまた下三角▽に戻っただけだけどさ。


「わかりました! 僕、頑張ってウスキキヌガサタケになってきます!」


 良い笑顔で、森の奥へと走り去っていった。


 ……おいおい。


 話しかける相手がいなくて、つい、腰の聖剣に手を置いてぼやいてしまった。


「もしかしてさぁ、この調子で色んな魔王が出て来ちゃったりする、の……?」


 やっぱり、剣は答えませんよね。










まるでキノコ狩りのお話ですね。(収穫無し)

ふっ、と鼻先で笑ってもらえたら幸いです。

※ウスキキヌガサタケは実在のキノコです。ヤマキイロホコリタケは、多分無い……です。


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