私が悪女?義妹が悪女の間違いではありませんか?
「このっ、悪女! 婚約者のヴァルク様を裏切るなんて」
アレクトン王国辺境の地、ニフテリーザ領の裁判所。裁きの女神像を背に、〝今回の〟エイレアが勝気な笑みを浮かべている。後ろの傍聴席からは、罵声が飛んできていた。
(貴方にだけは、言われたくないのですが…)
喧騒のなかで、ロディナ・ニフテリーザは青いドレス姿で凛と立っている。空色の鋭い目でじっと、証人を侍らせている義妹を見つめていた。
「お義姉様。いい加減、罪を認めてはいかがですか! ずっと黙っていないで」
裁判所にはおよそ相応しくない華美なドレス。ふわふわとした藤色の髪を振り乱し、エイレアは薔薇色の目を吊り上げている。
(聞き飽きましたよ、似たようなその台詞。婚約破棄に持ち込む方法は、前回とは異なるようですが)
ロディナには何度も人生を繰り返した記憶がある。義妹のこの台詞は、嫌になるほど聞いていた。そして、この義妹が偽物であることも知っている。
エイレアに取り憑いたこの悪女は、必ずロディナの婚約を破棄にしてやろうと邪魔してきた。婚約が成立しないように暗躍したり、濡れ衣を着せてきたり、あの手この手で襲いかかってくる。
何度か婚約が破棄になって、相手にするのが面倒だからと婚約者を譲ってみても、ロディナを領から追い出そうとする始末。
エイレアを救う手立ても、繰り返しの原因もわかっていない。だから今回は、正面からぶつかって潰してやることにした。この女を返り討ちにすれば、この繰り返しが終わるかもしれないと考えて。
「いい加減にしていただきたいのはこちらです。妹の体を乗っ取って、最低なことをして。それに認めるも何も、仕組んだのは貴方でしょう? 私の大切な妹を、早く返しなさい!」
予想外の反論だったのか、裁判所が静まり返る。
「……は? な、何を言っているのですか! わたくしはエイレアです。正気ですか? 殿方を誑かしたのをわたくしのせいにするなんて!」
動揺する彼女を、ロディナは無言で睨みつけた。
(黙れ。養女の私を姉と慕う優しい妹を、こんな女と間違うはずがない)
「では、この場で明らかにして差し上げましょう。皆さん、お願いいたします」
ロディナの言葉に数十名の人々が立ち上がる。ロディナが訴えられたと知り、証言してくれると集まってくれた人々だった。
そのなかの一人、若い男性が証言台へと立つ。
彼を見たエイレアは、あからさまに顔を歪めた。
「ロディナ様がヴァルク様を裏切るはずがありません。むしろ、エイレア様に問題があるとわたくしは思います。それを説明するために、あの日の出来事をお話しいたします」
ニフテリーザ伯爵領にヴァルクがやって来た日のこと。ロディナがヴァルクと彼の従者を案内していると、エイレアがやって来た。
「この砂っぽい土なら、クローバーが便利なのです! 土が良くなって、冬の家畜のごはんにもなるのですよ。わたくしがお父様に試したいと頼んで、実験しているところですの」
目を細め、得意げにエイレアは言い放つ。
「だから、クローバーを植えていたのですね。ロディナ嬢の妹君は、勉強熱心だ。姉妹揃って、領のためにと努力なさっている」
突如乱入してきた彼女を咎めることもなく、ロディナのほうを向いてヴァルクは穏やかに微笑む。エイレアの気味の悪い笑顔が見えていないようで何よりだ。
「……努力が実を結ぶといいのですけれど」
ロディナは、彼女の実験が失敗すると知っている。今までエイレアを乗っ取った悪女たちのなかにも、似たようなことをして動物たちを大量死させた者がいた。
(成功させていた女は、カブも植えていた気が……。あと、生で食べさせていなかったと思うのですが)
柵の向こうでクローバーを食む動物たちを、どうか死なないでほしいと祈りながら見つめる。
(お義父様には、牧草と同じで乾燥させたほうがいいのではと、申し上げたのですけれど。止められなくてごめんなさい)
『本で学んだことを試すのは、良いことだ。ロディナもやりたいことがあれば、遠慮なく言いなさい』とのことだ。そのような事柄が書かれた本を、ロディナは読んだことがない。エイレアに取り憑く悪女は、この世界にはない知識や言葉を持っているらしい。
「大丈夫ですよ。失敗しても無駄にはなりません」
ロディナの心境を察したのか、ヴァルクは努めて明るく言った。
「ヴァルク様の仰る通りですわ。お義姉様のトウモロコシ汁だって無駄ではありませんよ」
「トウモロコシ汁? ですか。あの異国の植物の……」
馬鹿にしたように言うエイレアを気に留めることもなく、ヴァルクは困惑している。
小麦の白いパンを食べられない者は貧乏人という考えが、この国ではまだ根強い。スパイスは快く受け入れたというのに、おかしな話だ。
「隣国出身の方に色々と教えていただいて、トウモロコシのシロップを塗って凍らせると、お肉が美味しく長持ちするそうなのです」
ロディナが前回の人生で、〝エイレアから〟学んだ知識だった。塩漬け肉よりも、何倍も美味しかったのを覚えている。凍らせ方がなかなか難しいが、高価な塩やスパイスを使うことを考えれば、お手軽で懐にも優しい。
「甘くてすぐ腐る肉ができるだけだと思いますけど。塩漬けか、単純に氷魔法で凍らせたものを氷室か地下室に放り込めばいいだけじゃないですか」
エイレアは鼻を鳴らした。
「エイレア嬢、そのような言い方は姉君に失礼では?」
「だって、トウモロコシですよ? 手伝ってくださっている領民の努力が報われなかったらと思うと……」
彼の険しい表情に観念したのか、小さく頭を下げる。
「ごめんなさい、お義姉様」
「気にしていませんよ。ヴァルク様もお気遣いありがとうございます」
「いえっ、成功したら教えてください。是非とも食してみたいので。……失敗したものでも、私としては構いませんが」
視線を彷徨わせ、落ち着かない様子の彼を一瞥し、エイレアはロディナを睨みつけた。
「また、招待いたしますね」
「オスキロスへもいらしてください。ご案内いたします。あの水魔法も教えていただきたく! それに…ろ、ロディナ嬢が、暮らすことになる……地でも、その、あるので」
「はい、是非伺いたいです。鍛錬もまた一緒に」
笑顔で答える。何度人生を繰り返しても、彼は誠実なままだ。だからこそ、毎回申し訳なく思う。この女とのくだらない争いに巻き込んでしまうことを。
「わたくしも行きたいです!」
大声で叫んで、エイレアは後ろからヴァルクに抱き着いた。
「なっ、エイレア嬢!」
ヴァルクの声に、離れたところで見守っていた彼の従者が、慌てて駆けてくる。
「エイレア、離れなさい」
「いや! お義姉様ばっかりずるい!」
「エイレア様。ヴァルク様はロディナ様の婚約者です。失礼ですがその行為は、伯爵家のご令嬢としてあるまじき――」
「黙って! たかが従者が偉そうにしないで! ニフテリーザでは無礼ではないわ! 親愛を示す挨拶よ」
エイレアは抱き着いたまま離れない。ヴァルクは、後ろをちらちらと盗み見ながら、不快感をあらわにしている。婚約者の妹だからと乱暴なことはぜず、黙ってくれているのかもしれない。
(ヴァルク様にこれ以上迷惑を掛けないでください。あと、変な挨拶を作らないでいただけますか)
ロディナは呆れ顔でため息を吐いた。
「――と、ヴァルク様に無体を働いていました」
あの日のことを語り終えたヴァルクの従者は、こう付け加える。
「エイレア様がヴァルク様を奪おうと、嘘を言っているに違いない。わたくしは確信しております」
「は? ふざけんなっ! 相変わらず偉そうなのね! 挨拶だって言ったでしょ!」
化けの皮が剥がれ始めたエイレアを、裁判所の者たちが取り押さえる。
「次の方、お願いいたします」
ロディナは淡々と続けた。
壇上に上がったのは、初老の男性。
「エイレア様の失敗で絶望していた私どもを救ってくださったのは、ロディナ様でした」
ロディナの予想通り、家畜の大量死が起きた。エイレアが小さな畑で行っているときは問題がなかったようだが、彼女が意気揚々と領民たちに教えて回って問題が起きたらしい。一時間も経たないうちに突然死する家畜が続出した。
それでもエイレアは、「乾燥させて、牧草にまぜなきゃいけないんでしたわ。あと、カブも植えなきゃいけませんでした」と悪びれる様子もない。領民たちの大切な生活の糧を、奪ったにもかかわらず。
「ロディナ様、本当にありがとうございます。塩も買えなくなって困っていたのですが、ロディナ様のおかげで冬を乗り越えることができました」
「いえ。もとはといえば、エイレアの失敗で皆様の大切な動物たちを……申し訳ございませんでした。ほら、エイレアも謝りなさい」
「……申し訳ございませんでした。今度こそ、成功するはずですわ」
「謝らないでください! 仕方がありませんよ。エイレア様も、上手くいったから教えてくださったのでしょう? それにロディナ様が冷凍してくださったあのお肉、とっても美味しかったんです! トウモロコシはすごいですね! 家畜の餌としても優秀なようですし」
ロディナの隣で、エイレアは不貞腐れていた。
「ありがとうございます」
「ニフテリーザの新たな産業として、大々的に売り出すつもりはないのでしょうか?」
「ありません。トウモロコシの輸入は、ただでさえ少ない状況です。安定した量を収穫するのはまだ難しいですし、需要が増えれば価格が高騰してしまいます。こうした非常事態に使うくらいで丁度いいのです」
「ニフテリーザで安定して収穫できるようになる日が楽しみですね。わたくしでよければ、是非とも協力させてください」
地区の代表は、あの日のことを語り終えてこう付け加える。
「ロディナ様は、こうなることを予見していらっしゃいました。エイレア様が酒造ギルドと肉屋ギルドに話を持ち掛け、金儲けに走り、トウモロコシの価格が上昇し、トウモロコシを主食とする輸出国の方々を苦しめることになってしまった」
「なっ! ニフテリーザは潤ったんだからいいでしょう? 馬鹿なの? 庶民が出しゃばってくんな!」
「やっぱり。おかしいと思っていたんです! 幼きエイレア様は、もっとお優しい方でした。ロディナ様の仰るように、悪魔が取り憑いていると確信しました」
裁判所内の厳しい目が、エイレアに注がれた。
「なっ、何よ。大体、なんでお義姉様が冷凍食品の知識をもってんのよ! 意味わかんない。お前もこっちの人間なわけ? なぁ、答えろよ!」
乱暴な言葉遣いに、ざわざわと騒がしくなる。
「冷凍食品? こっちの人間? 隣国出身の方に教えていただいただけですが」
(正確には、前回の貴方に…ですけれど。こっちの人間? もしや、組織的に動いている? この女は、前回の記憶を引き継いでいないようですし、それとも毎回別人が――)
考えながら、ロディナは嘘を返した。
「……もしかして、他のプレイヤーの知識? よりによってロディナに教えるとか嫌がらせじゃん」
よくわからない単語をまじえて、彼女はボソボソ呟く。
「さて貴方は、私の大切な妹のフリをして、これだけの悪事を働いてきたわけですが」
「はぁ? 悪事? 何を言ってるの? わたくしは失敗してしまっただけよ、お義姉様。どれも、ニフテリーザのためにと動いた結果なの。謝罪はいたしますけれど、貴方の裏切りとは――」
「そうですか。では次の方、お願いいたします」
若い女性が壇上へ向かう前に、エイレアの隣にいた証人の男が、意を決したように一歩前へ出た。
「お待ちくださいロディナ様。わたくしは、虚偽の証言をしてしまいました。ロディナ様と男が宿屋に入るところを見たというのは、嘘です」
エイレアは口をポカンと開けて驚いたかと思うと、すぐさま証人の男に飛びかかる。
「おまっ、ふざけんな! どんだけ金をやったと――」
「金だけで妻の病気は治らなかった! 罪は償います。金を受け取ってしまいました。嘘を吐いてしまいました」
蹴られながら男は言って、泣き崩れた。
「原告エイレア、証人の発言は」
裁判長の鋭い声が響く。
「うるさいうるさいうるさいうるさい!」
「真実が明らかにならなかった場合、精霊裁判へ移行いたしますがよろしいですか?」
「…………え。精霊裁判って、水鏡に全部やったことが映るやつ?」
「貴方の訴えが真実であるか、裁きの精霊様に――」
「やだっ! 絶対やだ! ロディナは悪女なのよ。ゲームでのコイツは婚約者を捨てて他の男と結婚する最低な女!」
裁判長に向かって喚き立てると、エイレアの足元に浮かぶ魔法陣。
「なんでこうなるのよ。あそこで一回きりの洗脳魔法使ったのが間違い? ここで使って皆操ったほうが……とにかく!」
(逃げる気ですか。本当に、救いようがありませんね)
エイレアは、身体能力を爆発的に上げる固有魔法を使うことができた。脚を最大限強化して、この場から逃走を図るつもりだろう。
しかし、ロディナのほうが速かった。
「ふぎゃっ! はぅ、はなせっ」
大切な妹の体を、ぞんざいに扱うわけにはいかない。痣にならないように、それでいて動けないように、彼女を取り押さえる。
「魔法を封じる手錠をお願いします。このままずっと押さえてはいられません」
手錠を掛けられ、何人もの男に引きずられるようにして元の場所へと連れ戻されたエイレアは、真っ青な顔をしていた。
「やだ……牢屋なんて絶対やだ。お金払ったのに。ゲームやめる。なんでエイレアなんだよ。他の令嬢ならもっと楽に攻略できたのに」
「他の令嬢……。エイレアの体を乗っ取ったこと、認めるのですね」
ロディナが問うと、エイレアは子供が駄々をこねるように暴れ始める。
「乗っ取ってない! ゲームだもん! ログアウトっ。こんなのやだ! ろぐあうとするのっ! 運営、聞こえてるでしょ! ろぐあうとろぐあうとろぐあうとろぐあうとろぐあうとろぐあうと!」
「また、わけのわからないことを。裁判長、彼女は――」
ロディナが言いかけて、見たことのない禍々しい色をした魔法陣がへたり込んだ彼女の下で輝いた。彼女を取り押さえていた男たちが慌てて飛び退く。
(嘘でしょ! 手錠で魔法は封じたはずで――まさか、外から仲間がっ!)
エイレアが静かになり、ぐったりと床に倒れ込んだ。どうやら気を失ってしまったらしい。
「…エイレア?」
裁判の幕切れは、あっけないものだった。
「ロディナ姉様! おはようございます」
「おはよう、エイレア。体調は平気?」
「はい! 元気ですよ。悪魔に取り憑かれていたときよりも、元気いっぱいです」
目覚めたエイレアは、今までのことを何も覚えていなかった。悪魔に操られていたということで、何ヶ月も大聖堂の地下の牢屋で過ごし、ようやく裁判で無実を勝ち取って、屋敷に帰ってきた。
「本当に? 何かされたり――」
「教会の皆様はお優しい方ばかりで。牢にいるわたくしを、気遣ってくださいました」
「なら、よかったけれど」
「お姉様のほうこそ、結婚式の件でお忙しいのでは? わたくしが、その……」
「延期したのはエイレアのせいじゃないよ。悪魔が悪い。悪魔が金儲けのために迷惑を掛けた国や領地があるからね」
あの女が本当に悪魔だったのか、正直、疑問はある。彼女の仲間を見つけてやろうと慌てて魔力探知を行ったが、反応はなかった。
(繰り返しの件も、訊ねておくべきでしたね)
「……ロディナ姉様」
エイレアは申し訳なさそうに俯く。
「どうしたの?」
「わたくしが姉様のように強くなかったから、悪魔に体を乗っ取られてしまったのでしょうか…」
「誰にでも起こり得るって、司教様も言ってたでしょう。……エイレア?」
「わたくし、もっとムキムキになりますわ! 騎士団長様のように」
「え? 待って! どこいくの! エイレア?」
「特訓です! 筋骨隆々令嬢を目指します。二度と、お姉様や領民たちを、苦しませないために」
エイレアは、屋敷の外へと駆けて行った。
(いきなり筋骨隆々って……でも、よかった。やっと、エイレアが戻ってきた)
解決しなければいけない問題は、まだまだある。けれど、何度も人生を繰り返し続けてきたロディナにとって、久方ぶりの平穏だった。
エイレアを救ったことで、世界はもう繰り返さないと信じたい。けれど、ロディナの疑念は晴れていなかった。
繰り返すたびに、彼女の性格、知識量、話し方、婚約を破棄に持ち込む方法まで異なっている。ロディナには、同一の存在がエイレアを乗っ取っているとは思えなかった。
(あの女は、本当にただの悪魔なのでしょうか?)
魔王討伐に勇者一行が出立したとの一報で、ロディナとヴァルクの結婚式の日取りは更に延期となった。ロディナはその期間を利用して、調査を始める。
時を操る魔法や精霊について調べたり、悪魔によって起きた事件の文献などを徹底的に当たった。エイレアに取り憑いた悪魔のような事例はない。あの女が口にしていた知らない言葉の意味もわからないままだ。
気づけば知らぬうちに魔王は倒され、その一ヶ月後に行う予定となった結婚式の日付になっていた。
(眠い…。昨日くらいは休めばよかったですね)
欠伸を噛み殺し、義父と扉の前に立つ。扉が開くと、眠気が吹き飛ぶような盛大な拍手の音。祝福に包まれながら、祭壇の前で待つヴァルクの元へとゆっくりと歩く。
なかほどまでたどり着いたところで、義父がよろけ、その場に膝を着いた。
「すまない、ロディナ。眠気が」
「お義父様? 大丈夫で――」
拍手の音が、まばらになっていく。参列者たちがぐったりと椅子に身を預け、椅子から転げ落ちていった。
(えっ、そんな。待って、なんで! どうして!)
義父が倒れ込む。祭壇のほうからも鈍い音がした。こちらに手を伸ばしたような姿で、ヴァルクが倒れている。
ロディナは、この光景をよく知っていた。時間が巻き戻る前の、最悪な――
「ヴァルク様…。エイレアはっ!」
「お姉様っ……」
エイレアのか細い声を最後に、ロディナも意識を失った。
「あら、悪い悪いロディナお義姉様。弁明の余地もございませんこと?」
アレクトン王国辺境の地、ニフテリーザ領の裁判所。裁きの女神像を背に、〝今回の〟エイレアが勝気な笑みを浮かべている。後ろの傍聴席からは、罵声が飛んできていた。
(何度も言いますけど、貴方にだけは言われたくありません)
喧騒のなかで、ロディナ・ニフテリーザは青いドレス姿で凛と立っている。空色の鋭い目でじっと、虚ろな目をした証人を侍らせている義妹を見つめていた。
裁判所には相応しくない華美なドレス。ふわふわとした藤色の髪を振り乱し、エイレアは薔薇色の目を細める。
彼女の狙いは、ロディナとヴァルクの婚約破棄。裁判官や傍聴人たちを魔法で操り、都合の良い判決を下させるつもりらしい。
(今回もヴァルク様狙いですか……。けれど残念でしたね。貴方は魔王討伐の知らせを聞いていない。この世界はですね、魔王が倒されてひと月が経過すると――)
罵声が止む。エイレアの隣の証人が倒れた。そして、悔しそうな表情の悪女も。
(時間が戻るんですよ。婚約者を譲っても、幽閉されてみても、……妹を、救っても)
ロディナは、また目覚める。繰り返しの始まりの日となる、八歳のあの日に。
(絶対に諦めない。またエイレアを取り戻して、繰り返しを終わらせる)
最後までお読みいただきありがとうございました!
お気に召していただけましたら、長編版もございますので、読んでいただけると嬉しいです。
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