天使の嘆き
サトシ → 物部聡
です
私は狙い通りサトシに辿り着いた。
最初は大学名しか知らなかったが遂に今晩アパートの場所とベッドに入る権利を手に入れた。
男達の悪行になされるがままに酔い潰れた私をサトシが放って置くわけがない。
起き上がり部屋をチェックすると今の所他の女の痕跡はないみたい。モテるサトシが女日照りとは考えにくいけれど部屋の様子から決まった相手はいないみたい。
サトシが高校を去ってから1年間辛かった。本当に辛かった。
サトシはもう抱いてくれない。男が欲しいんじゃない、サトシが欲しい。サトシはベッドでいつも私に「綺麗だよ」と言ってくれるけれど、私はいつも「サトシのほうがずっと綺麗」と心の中で思ってた。
サトシとのことは家族は大反対。結婚どころか付き合うことすら大反対。会うのだって・・・・当然よね。
私の怒りは元婚約者に向いた。
やったのは簡単なこと。突然電話をかけた。
サトシがセックス中の私の声を婚約者に流して気付いた私が慌てて切るというという演技。全て私の一人芝居。普段から電話をする機会が少ない元婚約者は録音すら出来てないはず。結構なセリフ量だがあとでみたらたった11秒。ささやかな攻撃だけど甚大な精神的ダメージのはず。謝罪なんてしない。私は婚約のせいで10年絶望してたんだから。
あの小細工に効果があったかは判らないけれど奴は留年した。奴は留年したけれど、それが私の工作のせいかは判らない。そう、彼はダメな男だったから。あれがなくても留年の可能性はあった。
陰キャ、オタク、ヒョロガリ、不潔ではないけどセンス無し。成績は常に悪く、運動音痴。特技なんてないし将来性は絶望的。
奴の長所は父親が企業の経営者一族で、誰かが死ぬ度に大金が入ってくること。分配された持株だけで生きていけること。婚約者が美人だということ。
彼との婚約ははっきり覚えている。忘れようにも忘れられない。
あれは彼一族と協力企業代表との新年会。
私も協力企業の経営者の家族としてそこにいた。
あの悪夢の婚約はワガママな子供の駄々で決まったのだ。欲しい物は駄々をこねて手に入れるのが奴の常套手段。今日は新年を祝い皆笑顔で穏やかに挨拶を交わす日。気が向かない相手にも作り笑顔をする。問題など起こしてはいけない。だが会場で空気を読まず大声を上げて場を乱し、駄々をこねるクソガキをなだめるために私との婚約が決まった。そう、私はその頃から「上玉」だった。クソガキを鎮める生贄にされた。
相手の家と我が家の関係を考えれば、昔からゴキブリほど大嫌いなクソガキにも愛想笑いをするしかない。そんなことは子供の私でもわかる。しかし、ゴキブリ野郎は私の心情など一切気にせず自分の欲求だけ貫いた。
こんなことはきっと有耶無耶になるか、子供の言ったことだからと無くなると思っていたのに、まさか高校生になってもまだ有効なのに絶望した。
迂回して私に届いた話では、私を妻にすることで経営側で奴の代わりをさせるつもりだったらしい。一族の中でも奴の無能っぷりは知れ渡っていたから配偶者が重視されたのだ。
1月と7月の年2回しか会わないのにいつも一緒の幼馴染?どれだけボッチなのよ。奴のことは最初から大嫌いだったし無能だと知っていた。無能も子供のうちならまだいいがこの年でも治ってない。むしろ退化している。
奴との結婚で有望な就職先と財産が手に入るのは従兄弟たちから羨ましがられ、まだ結婚してないのに祝福された。
まって!
あんな男に毎晩股を開く私は?
あの男のものを体内に受け入れる私は?
舐め回される私のことは?
全部要らない!
誰か助けて!
高校でのセクハラの辛さなんてこの婚約に比べれば可愛いものだ。
正直、セクハラのことはそれほど堪えはしなかったし気にしていなかった。まあ、セクハラが人生でプラスになることはないと思っていた。
だけれども奇跡が起きた。
サトシが現れたのだ。
彼は私の救世主であり・・
聖剣だった。
きっとサトシとは結婚出来ない。別れも告げられた。
でもいい。妻になれなくても私は彼の側に居る、どんな立場であれいつまでも。まずは同じ大学に入る。
高校2年の終業式の日にその決意は固まった。
だけど本当に辛かったのはその日から。
サトシの大学のレベルが異常に高すぎた。私も優秀だと自負していたけど、サトシは遥か高みを鼻歌混じりで飛んでいた。
絶望した。それはもう一度フラれた気分になる程だった。




