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24.窮する羊は牙を持つか

 タイムは仕事が無くなったため翌日朝から箱の中身を確かめる作業をすることになった。

 昼過ぎまでずっと文章を見つめ続ける作業でタイムが一番苦労したのは、文字を読む事ではなく読まなくてもいい所まで読み込みたいという欲求を押さえることだった。

 まさか種族としての性質がこんなところで仇になるとはと、タイムは自分の抑えの効かなさに呆れてしまう。

 空腹も忘れて文章と欲求との戦いを続けていると、マートルとオリーブを連れてカレンが来た。

 どうやら昼食を持って来てくれたらしい。


「兄さんお疲れ様です」


「ん、別に疲れてない、そっちは?」


「こっちも何にもないよ」


 カレンが焼いたとクルミのパンは、タイムの好きな味だった。

 マートルはディルに言われタイムを手伝に来たらしく、昼食が住み帰って行くカレンとオリーブを見送りお化け時計塔に残った。

 誘惑に負けそうなタイムは、マートルが来てくれたことが有り難かった。

 二人きりが久しぶりだと気が付き、以前聞きそびれていたことを思い切って聞いてみる。


「……そう言えばさ、放火窃盗は俺が町に帰ってきた後あった?」


「無いな、恐ろしいくらいにぴたりと止んでいる」


 言われてみればとマートルは最近放火窃盗の事件が無い事に気が付く。

 しかしまだ前の犯行から一か月経ってもいないのだし、何の不思議もないだろうとマートルは答える。


「ねえ、ネトルの愛人の波馬って、何歳くらい? ここ火傷の跡がある?」


 それはタイムが病院で見た妙に目に付いた女の特徴。

 あの時付き添いをしていた火の穴熊の男をどこかで見たことあると思ったのは間違いでは無く、あの火事の現場の不審な男だったのだと思い出す。


「子供はいる? あんたとそう歳変わらないくらいの男で」


「ああ、ネトル氏との間に一人……何故?」


 やっぱりかとタイムは確信する。


「俺が帰ってきたばっかの日に、火事の現場で多分そいつだって思う男見た。それで、病院で火傷の女と一緒に居るところも」


「まさか!」


 気色ばむマートルを大丈夫だよとタイムは宥める。


「今ディルの所には人がいる。病院その物に放火をしたとしても、十分逃げる時間はあるし、そもそも病院に放火をするような馬鹿な真似はしないと思うよ。それよりも、問題はその二人が受診してたのが、呼吸器の方だったって事。証拠はないけどね、無理やりディルからソレル家の実権を奪ったせいで、波馬の女はシフレの呪いを受けてると思うんだ」


 それは以前にタイムがディルへと語ったことの確認だった。

 それに対してマートルはそういうことかと納得する様子。

 まさかディルも知らなかったシフレの呪いを知っていたのかとタイムは驚き、マートルは知らなかったさと答える。


「ディルに聞いたんだ、シフレで作った契約の書類はシフレのギフトの恩恵を受けていると。シフレのギフトの恩恵は、シフレでの罪を犯した者に、火のと風の罰を与えるというもので、火傷に呼吸器の病、それはまさしくシフレの呪いだろ? ああそうか、そうだ、たぶん……義父さんが生前に作っていた、遺言書を勝手に盗み出し破棄したんだ! 義父さん自身が保管していた物と、弁護士に預けていた物を両方を!」


「弁護士? 弁護士の事務所に預けてた方もやられたの?」


 ディルが二年も裁判を待たされていると言っていたのは、なるほど控えすら破棄されていたからだったのかと納得する反面、そこまで周到にするなんてよほどその遺言書はネトルにとって都合の悪いものだったのだろうと思えた。

 その書類さえあればディルの言っていた通り何の滞りも無く施設の運営ができ、時間をかけてディルもソレル家の商売を引き継げたのだろう。

 その事はマートルも思う所が有ったようで、悔しげに詳細を話す。


「ああ、放火窃盗の最初の被害が、その事務所だ。いや、放火の被害と言うべきか。確かちょうど事務所を訪ねてきた顧客と、弁護士のルバーブ氏本人が火傷を負っていたと。ルバーブ氏は今は仕事も出来ないからな、一応婚戚ということでソレルの本家が面倒を見ている。そう言えばその顧客は火事の原因をルバーブ氏の事務所にあるとして、火傷や呼吸器の怪我を負った賠償などで訴えを起こしていたはずだ……その女が?」


 聞き及んでいた話と、タイムの主張に合致するところがある事に気が付き、マートルはまさかと自分の口を押える。


「多分あの女の顔の火傷はその時に負った物だろうね……火の穴熊族は火難にあいにくいっていう特性がある。けれど波馬が吼え馬族の亜種だっていうなら、火に関しては普通の人間と変わらないから……それに、シフレの呪いで火難に見舞われやすくなってた。呼吸器の炎症もシフレの呪いの方かもね。もし体に灰色の痣が出来ているんだったら、確実」


 その弁護士の事務所が放火窃盗の被害者であるというのならすべてが繋がる。


「もし犯行をしているとするなら火の穴熊の男の方が火付けで、窃盗は波馬の女だろうね。火の穴熊は火難に遭い難い。波馬が吼え馬の亜種だっていうなら、その膂力はリーブ以上だ。確か、窃盗は力任せに壁なんかを壊して行われてたんでしょ?」


 オリーブから一部を聞いていたマートルはそれについても深く頷く。


「繋がったね……まあ、だからと言って、下手に動くつもりはないけれど」


 タイムはもう同じ失敗は繰り返さないと宣言する。

 例え対峙すべき相手が分かったとしても、今は下手に動くべきではない。

 犯罪の証拠はタイム達が持っている。

 焦るべきではないと言い聞かせるように呟くタイムに、マートルは安どの息を吐いた。

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