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23.兄という人たち

 タイムはまずマートルが事の全てを知ったことをディルに伝えるように頼んだ。

 マートルに知られた事をディルはきっと後悔するだろうが、マートルはそれを自業自得だと言う。

 頼ってくれないのならなぜ僕を妻に選んだのか、寝る間もないくらい問い詰めてやると宣言するマートルに、タイムは正直ディルを憐れんだ。


 マートルにはディルの身の安全のために病院に詰めてもらうことになった。

 マートルがいない時はディルの家にいた初老の使用人と、彼女が信頼する孫にあたる青年のみが出入りできるようにするらしい。 信頼のならない人物じゃなかったのかと問うタイムに、口煩くて怖いだけだとマートルは答えた。

 元はディルの祖母の使用人で、昔気質で口煩いが、主人の言うことは絶対に守る人なんだそうだと。


「あの人がいなければ、僕らはとっくに音を上げていた……感謝はしているんだ、感謝は」


 マートルがそうぼやくのは、本当にマートルに淑女としての教養が無かったせいなのだろう。

 墓地の前で見せたあの気取った態度は、彼女にしっかり仕込まれたのだとか。

 信頼を寄せる相手が他にもいる、それが分かっただけでもタイムにとってはありがたかった。

 自分達がどうにかしなくてはと気を張っていたせいで、周囲を見ることを忘れて空回りしていたのだと気が付く。

 本当にもっと早くに頼っていればよかった。


 自分が一人で頑張る必要が無いと分かれば、タイムはだったらいっそ大きな無茶をやろうと決めた。

 ディルの管理している倉庫から盗品と思わしき羊皮紙を運び出したのだ。

 もちろん一人では無理なので、バジリコとヤロウに手引きと手伝いをしてもらう。

 お化け時計塔まで箱を運び、タイムはバジリコにここまでだと告げる。

 時刻は深夜。人の目の無い時間に三人は動いた。


「バジリコ兄さん、後は頼んだ」


「いいのか? 本当に?」


「いいよ……俺はいざとなったらまたこの町を出る。俺はディルと喧嘩別れをした、仕事も放り出して辞めた、せめて働いてたぶんの給料は施設に、これでいい」


 もしこの盗品が後々事件の証拠となるなら、それを運び出したタイムには証拠隠滅の嫌疑がかかるかもしれない。

 しかしタイムはそれならなおさら自分がやるべきだと主張した。

 自分はもうソレル家に雇われてはいない、ただの一市民。しかも何時だってこの町を飛び出していける存在だ。

 ほとぼりが冷めるまで遠くに逃げるのも問題は無い。


「……すまない」


「いいよ、その代り俺の代わりに今まで以上にディルを支えて。きっと厳しくなる」


 それがタイムの考えた、人に頼る方法。

 もっと直接的にあれをしてほしい、これをしてほしいとねだれないのは、祖母に似たのかもしれないと、タイムは内心自嘲する。

 それでも自分が気兼ねなく動けるのは、安心して後を任せられる人間がいるからだ。


「ばいばい、兄さん……」


 闇に溶けるように去る背中に、タイムは小さく手を振った。




 お化け時計塔に箱を持ち込みタイム達はまず中身を確認する。

 カンテラの明りだけでははっきりと見ることは叶わなかったが、それでも古い羊皮紙を中心とした紙類であることは分かった。

 ヤロウは箱から一部を取り出し確かめる。

 これからこれらの文書を精査し、ギフトについて調べると同時に、箱が倉庫から移動させられたことによって相手がどう動くのかを見るつもりだった。

 その為のディルの守りを固め、カレンも始終ディルの傍かオリーブと一緒に居るようにしている。


「これが……確かに、これは、古い本をばらしたもののようだ」


「言っとくけど、これを全部読んでも、ギフトのある場所が確実に分かるとは限らないし、どちらかと言うと可能性は低いよ」


「分かっている、用事が無いからこそ、倉庫に溜めて置いてあるということだろうから」


 これらを読んでギフトが本当に見つかるかは分からない。

 それでもダメもとで調べる。 それが自分達一族のけじめをつけるためにも必要だとヤロウは言う。

 元々このお化け時計塔は、波馬一族の集会場兼信仰の場だったのだと言う。

 時計塔を建てたのは、より神に近い場所にという当時の一族の長の考えから。


 しかしその波馬一族は、時計塔を建てた直後にギフトを公共のために使う者達と、ギフトは一族のためだけに使うべきだと主張する者達とで割れ、結果町の有力者を取り込み自分達の私欲のために使おうとした者達が、ギフトに選ばれた一人を殺してしまい、ギフトは失われてしまった。

 ギフトに選ばれた一人を殺した者達は逃げ出し、また残った者達もギフトを失った責を問われ追われるように町を去った。

 今ベラムの町にいる波馬一族は、皆一度町を去り代が変わって戻ってきた者達だとヤロウは語る。


 ヤロウは祖父の代にこの町に戻り、ヤロウの祖父はその膂力を駆使し、傭兵として金を稼ぎ、ヤロウの親を中央学院に通わせ学を付けさせた。

 より良い地位に立ち、町での権力を握れば、失われたギフトを探しだし神への償いが出来ると考えていたんだそうだ。

 ヤロウとカレンもまたそうなる予定だったが、カレンが生まれて間もなく、両親が殺され、その犯人が実の娘であると知ったヤロウの祖父は心労から病に倒れた。

 蓄えはあったが、まだ幼かったヤロウには祖父を看病しながらカレンを守り育てることできず、施設の前に置き去りにしてしまったのだとか。

 本当は自分が仕事をするような年齢になれば、カレンを迎えに行くつもりだったと言うヤロウ。


 しかし、ヤロウは父母の敵打ちという私怨を忘れられなかった。

 そんな折に同じ職に就いたオリーブと出会い、そのオリーブが引き取った同じ施設の少女が自分の妹だと気が付き、今に至るのだと言う。

 まだカレンを引き取りたいかとタイムが問うと、ヤロウは無理だろうと苦笑した。


「カレンの兄は私ではなく君なんだろう」


「まあね」


 ぽっと出の相手には負けないよと、タイムは口の端を持ち上げる。まだヤロウにはカレンの兄を名乗らせないと、僅かばかりの意地だった。

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