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19.怪しい友人

 翌日の夕方、仕事が終わったタイムが何となしに、何処か秘密の場所を知らないかと、愚痴るような気持ちで話をしたのはカレンだった。

 ディルの事務所から直接オリーブ達が住んでいるアパートメントを訪ね、一人で部屋の掃除をしていたカレンに、タイムは深く考えずに溢していた。

 狭い家だったがどことなく施設を思い起こさせる、簡素でも清潔な部屋。


 昔そうしていたようにベッドに並んで腰かけて、タイムはカレンに話した。

 カレンに溢しながら、俺も疲れてるのかもなと、ふうと溜息を吐くと、カレンはタイムの頭を抱えるように抱き締めた。

 マザー・フラックスが泣きだした子供達に良くしていた仕草だ。自分はそんなに泣きそうに見えたのかと、タイムは少しばかり自嘲した。

 しばらく黙って抱き締められていると、カレンは何かを思い出したかあっと大きな声を挙げた。


「そうだ! 僕知ってるよ! 三の川の傍のお化け時計塔。あの中秘密の倉庫なんだ、あそこだったら色々隠せるよ! オリーブ姉さんの上司の人が教えてくれた」


「はあ?」


 一体何を言い出すんだと驚くタイムに、カレンはとても嬉しそうに笑って返す。

 お化け時計塔と言えば、ベラム中の子供達が夜中に怯える割れた金の音の時計塔だ。

 噂ではその時計塔は、誰も出入りすることのできない開かずの時計塔でもあり、それなのに正確に時を刻んでいて、時折不規則な悲鳴を上げる様は、自分の存在を忘れてくれるなと嘆くお化けのようだと言われていた。

 その時計塔の中が倉庫になっているなどと言われても、タイムはにわかには信じることができなかった。

 しかもその話をしたのはカレンの直接の知り合いというよりも、オリーブの上司という間接的な間柄の人間。


「姉さんの仕事先の人、友達になったんだ!」


 これはカレンに聞いてもらちが明かないなと、タイムはカレンを連れてディル達の家に帰った。




 家に帰るとディルはまだ帰っておらず、以前世話になっていた弁護士の見舞いに行っていた。

 相続の事や仕事の事で話すことがあると忙しそうにしていた。

 本当はマートルも着いて行きたがったが、家に客を呼んだからと却下されたらしい。

 主は留守だが今日もディルの家の夕食に呼ばれていたオリーブに、タイムはカレンがこんな事を言っていたんだがと、盗品の事は隠して話をすると、オリーブは訳が分からないと首を横に振った。


「オリーブ、どういう事?」


「知らん……いや、カレンとは一緒に住んでいるからな、仕事場に何度か届け物をしてもらったことはあるが……その時仲良くなったのか?」


「うんそうだよ!」


 オリーブの仕事仲間と会う機会はいくらでもあったらしく、何時の間に仲良くなったかは分からないとオリーブ。

 カレンは結構前とあっけらかんと答える。

 タイムにとって秘密の隠し場所は魅力的だったが、カレンの言うオリーブの仕事仲間がどんな人物か分からない限り信用はできないと、その上司の特定をすることにした。


「どんな人? っていうか名前は?」


「あ、聞くの忘れてた。背はおっきかったよ、オリーブよりも」


 カレンの答にオリーブは額を押さえた。

 オリーブの仕事仲間は男の内でも背が高い、体格の良い者が多く、その言い方では特定しようがない。


「仕事の性質上多すぎるだろ……角は有ったか?」


「無かったよ。耳がね僕とよく似た縦長で、髪は明るい茶色で真っ直ぐでひっつめてた、目も僕と同じハシバミ色だった。何か懐かしい感じがしたよ! あ、あのね、だから僕この人だったらお近づきになりたいなって思ったの!」


「それって、カレン姉さんと同じ種族の血を引いているんじゃない?」


「そうかもしれない!」


 リコリスの横からの言葉に、カレンは大きく嬉しそうに頷く。

 なるほどカレンが懐いた理由はそこからかとタイムは納得する。

 明確には分からなくても自分と同じ種族同士、カレンからだけでなく、オリーブの上司もカレンに対して親近感がわいたのかもしれない。


「やった! じゃあその人が分かればカレン姉さんが何の種族なのかも分かるよね!」


「ほんとに? ほんとに僕が誰か分かるの?」


 カレンとリコリスは手を取り合って喜ぶ。

 微笑ましい光景を前に、しかしオリーブはちょっと待ってくれと慌てた。


「カレンその人は僕の直属の上司だ! リコリスが嘘を吐いていると言っていた!」


 驚き固まるカレンとリコリス。

 タイムはオリーブの言葉に眉を寄せる。

 嘘を吐いていたとは言っても、リコリスは相手に嫌な感じは無かったと言っていたはずだ。

 ならばその嘘と言うのがカレンと仲良くしていることを黙っていただけだとしたら、問題は無いのだが。

 黙り込んだタイムに代わり、それまで静観していたマートルが問う。


「どういうことだ? オリーブ、お前の上司は一体何者なんだ?」


「……若くして上位の訓練校を卒業した、一般兵とは違うエリートだとは聞いている」


「確かお前の上司はお前と同じ年って言ってなかったか?」


 オリーブから上司の話を聞いたことが有ったマートルは改めて確かめる。


「ああ、そうだ。本来ならもうしばらく士官課程を修学するのが通例だそうだが、上司は町のために直接働きたいと、警邏部隊の隊長職に就いた奇特な人だ。本人が何種であるとは語ったことは無かったな……そう言えば」


 オリーブとしてはリコリスに言われたから疑いはもつが、心象的には信頼している相手だと言うその上司が、何種であるかは聞いたことが無かったらしい。

 オリーブ本人が自分の種族を特に知らずにいた事も、相手の種族を気にしなかった理由だろう。


「そうか……カレンに近付いたのは、カレンの様子からするに多分、同じ種族の血を引いているからか。単純にそれだけだって事もある。ほら、カレンとリコリスがそうであるように。リコリスも古書店の友人もそういう理由からだったんだろ?」


「う……うん」


 タイムはオリーブの上司の行動は納得の範囲だと言うが、しかしリコリスの返事は硬い。

 カレンとタイムを交互に見やり、自分の言葉を否定しようとする。


「あの、あのね、僕あの人の事嘘吐きって言ったけど……あの、すっごい嘘吐きって感じじゃなくて、嘘を吐いてるなって感じる程度だったんだ」


「……カレンの友人関係に口出しはしないって、安心しろよ」


 リコリスが何を心配しているのか分かり、タイムは落ち着かせるためにリコリスの頭を撫でる。

 リコリスはタイムにしがみ付いてごめんなさいと小さく謝罪した。

 カレンもリコリスごとタイムに抱き付くと、上目遣いにタイムを見やる。目には涙すら浮いている。

 せっかく会えた同族。同族への依存の強い種である二人にとっては、相手が信用ならず、付き合いをしてはいけないというのは、精神的にダメージだったのだろう。


「友達になっちゃ、ダメな人?」


「じゃないと思うけど……一度会ってはみたいな。ま、多分大丈夫だと思うけど」


 泣き出してしまいそうな妹二人を慰めつつ、タイムは少し重い息を吐いた。

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