雷鳴の剣の咆哮と世界の震撼
トロイセン王都近郊に設けられた広大な演習場は、その日、異様な熱気に包まれていた。
国際的な試射公開というロキニアス王の布告により、ロムエルド帝国、教皇庁の残党、そして周辺の小国々からの特使が、厳重な警備の元、観覧席に集まっていた。彼らの表情は、期待よりも、トロイセンが何を企んでいるのかという底知れぬ恐怖と警戒で満ちている。
演習場の中央には、北方の鉄鉱石から鋳造された真新しい鋼鉄の砲身が、頑丈な木製の台座に据え付けられている。それは、彼らが知るどの兵器とも異なる、巨大で異質な存在感を放っていた。
ロキニアスは、私、スーザンを隣に立たせ、特使たちへと向かって宣言した。
「全大陸の使者たちよ。これこそが、我が王妃スーザンがトロイセンの知恵と貴様らの知識を融合させて生み出した新しい時代の武器、雷鳴の剣だ」
彼は、私に目配せをした。私が、この試射の主導者であること、そしてこの力の源が私自身であることを、大陸中に印象づけるためだ。
私は、フィリップに合図を送った。フィリップは、興奮と緊張で震える手で、火砲に火薬を装填し、砲弾を押し込んだ。砲弾は、フィリップのチームが、アステリアの幾何学に基づいて計算した、完璧な弾道を描くよう設計されている。
ロキニアスは、特使たちを指差し、試射の目的を改めて宣言した。
「試射の標的は、この演習場の対面に設営した、帝国式の二重構造の城壁だ。貴様らが、我がトロイセンを野蛮な国と蔑視していた時代に築き上げた、最も堅固な壁だ。その壁が、我が王妃の知恵の前で、どれほどの抵抗力を持つか、その目で見よ!」
フィリップが、火薬の導火線に火をつけた。観覧席は、一瞬にして静寂に包まれた。特使たちは、固唾を飲んで、砲身を見つめている。ロキニアスは、私の肩を抱き、私に耳打ちした。
「スーザン。最高の音を聞かせてやれ」
次の瞬間、世界が震えた。
ドオン!
それまでの戦場で聞くことのできた、どの音とも違う、地を揺るがすような爆音が轟いた。強烈な閃光と、白煙が演習場全体を包み込み、耳を塞いだ特使たちの多くが、その場に崩れ落ちた。
ロキニアスは、その音に狂喜乱舞し私を抱きしめた。彼の愛と、私の知恵が融合した、勝利の咆哮だ。
煙が晴れると、特使たちは、信じられない光景を目にした。
標的として立てられた二重構造の城壁は、城門の真上、フィリップが計算した完璧な地点に、直径数尺の巨大な穴が開いていた。城壁の石材は粉砕され、煙を上げている。それは、一発の砲弾がもたらした、圧倒的で、そして絶対的な破壊だった。
観覧席は、完全に沈黙した。特使たちの顔からは、血の気が失せ、恐怖と絶望の色が浮かんでいる。彼らは、トロイセンが、一瞬にして自国よりも遥かに優位な軍事力を手に入れたことを悟ったのだ。
特に、ロムエルド帝国の特使、グラディウス公爵は、その場で震えが止まらなかった。彼らがトロイセンに売った製鉄技術が、自分たちの城壁を破る武器となって返ってきたという、この皮肉な現実。
ロキニアスは、大笑いしながら、破壊された城壁を指差した。
「どうだ! これこそが、我が王妃スーザンがもたらした知恵の力だ! この雷鳴の剣の前では、貴様らのどんな堅固な城壁も、ただの砂の城に過ぎぬ!」
彼は、私を特使たちの前に立たせた。
「貴様らも、我が王妃に感謝せよ。彼女は、貴様らが長年築き上げた戦争の常識を、一瞬で打ち破った。もはや、城壁に籠もるだけの戦争は終わった! 貴様らは、新しい時代の戦争、そして平和のあり方を、今すぐ考えねばならぬ!」
特使たちは、もはや反論する言葉を持たなかった。彼らは、トロイセンを敵に回すことが、国家の滅亡に直結することを理解した。
試射は、単なる兵器のデモンストレーションではなく、トロイセンが大陸の軍事覇権を握ったことを、全世界に宣言する儀式となった。
その日の夕方、王宮では、火砲試射の成功を祝う宴が催されたが、私は、ロキニアスから離れて、フィリップの元へ向かった。
「フィリップ殿。あなたの計算と、鋳造の技術は完璧でした。この成功は、あなた方王立技術研究所の功績です」
フィリップは、感激のあまり、私に向かって深く頭を下げた。
「王妃殿下。わたくしの幾何学が、これほどの力を発揮するとは、夢にも思いませんでした。わたくしたちの使命は、この科学の力を、王妃殿下とトロイセンのために、さらに進化させることです!」
私は、彼が持つ純粋な探求心と、科学への情熱を確認し、満足した。これで、私の知恵は、トロイセンのシステムの中で、永遠に生き続けることができる。




