火砲試射の布告と帝国の動揺
火砲の砲身は冷却され、フィリップのチームによって、内部の仕上げ加工が施された。アステリアの幾何学によって計算された、完璧な内径と滑らかさが実現している。同時に、火薬工場では、私が伝授した硝石生成技術により、高純度の強力な火薬が大量に準備されていた。
そして、ついに火砲の試射の日取りが決定された。
ロキニアス王は、試射を秘密裏に行うのではなく、あえて国際的に公開することを選んだ。
「グスタフ。帝国、そして教皇庁の残党に、正式な書状を送れ。トロイセン王国は、数日後に、新兵器『雷鳴の剣』の試射を、王都近郊の演習場で行う。全大陸の使節団を招待すると明記せよ」
グスタフは驚愕した。「陛下、新兵器の威力を、敵国に公開するのですか⁉ それはあまりにも危険では……」
「危険ではない」ロキニアスは冷笑した。「奴らは、我々がどのような武器を持っているかを知ることで、初めて我がトロイセンを真に恐れる。秘密裏に保有する力よりも、公開された絶対的な脅威の方が、奴らの手を縛るには効果的だ」
これは、私の戦略とロキニアスの蛮王らしい大胆さが完全に一致した結果だった。彼らの恐怖心こそが、トロイセンを守る最大の盾となる。
トロイセンからの招待状は、すぐに大陸中に激震を走らせた。特にロムエルド帝国では、激しい動揺が広がった。
グラディウス公爵は、謁見の間で皇帝に進言したという。
「陛下! トロイセンが、我々の製鉄技術を基に、火砲を完成させたことは明白です! 彼らが試射を公開するのは、我々に対する明白な威嚇です! もしあの武器が、城壁を打ち破る力を持つならば、帝国の軍事的な優位性は完全に崩壊します!」
帝国皇帝は、トロイセンの技術力とロキニアスの無謀な行動に、深い懸念を抱いた。彼らは、トロイセンへ特使を送り、試射の中止を求めようとした。
しかし、ロキニアスは、帝国の特使を冷酷に拒絶した。
「我がトロイセンが、どのような兵器を開発しようと、貴様らが口を出す権利はない。貴様らは、我が王妃の知恵にふさわしい対価を払った。これで、全ての取引は終了した。試射は予定通り行う」
そして、ロキニアスは、私、スーザンの指示により、帝国の特使に一つのメッセージを伝えた。
「試射の中止を求めるのではなく、貴様らは、トロイセンの王妃がもたらす新しい知恵を、平和的な方法でどのように活用できるか、考えるべきだ。試射の場で、貴様らが新たな協力関係を提案するのならば、この蛮王も耳を貸す用意がある」
これは、帝国に対する新たな外交の扉を開く、巧妙な一手だった。火砲という絶対的な軍事力を背景に、トロイセンが主導権を握った状態での協力関係だ。
試射の前夜、王立技術研究所の実験室で、私とフィリップ、そしてロキニアスは、火砲の最終チェックを行っていた。砲身は、帝国から奪った技術によって精錬された鋼鉄特有の、鈍い光を放っている。
「王妃殿下。設計上の精度は完璧です。火薬の配合も、最高の爆発力を発揮するよう調整しました。しかし……、わたくしはまだ、この威力が、どれほどのものか想像できません」フィリップは、興奮と同時に、畏怖の念を抱いていた。
「フィリップ殿。あなた方が造ったのは、城壁を破る力だけではありません。あなた方が造ったのは、大陸の歴史を一変させる力です」私は、静かに答えた。
ロキニアスは、その火砲の砲身に触れ、その冷たい感触を確かめていた。
「スーザン。貴様の知恵は、本当に恐ろしいな。だが、貴様がこの私から離れることなく、この力を私に捧げる限り、私はこの世界を、貴様が最も平和に、そして安全に暮らせる場所にしてやろう」
彼は、私を抱き寄せ、耳元で熱く誓った。彼の独占的な愛は、この火砲という新たな力の完成によって、さらに強固なものとなっていた。




