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虐げられし陰の皇女ですが、生贄嫁いだ隣国で「蛮王」に甘く愛され、飯テロ&内政チートで国を救うことになりました  作者: 夏野みず
帰還の途と科学の剣

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教皇庁の崩壊と王の愛の完成

 北方の聖地での衝撃的なデモンストレーションは、瞬く間に大陸全体へと波及した。教皇庁の権威は、地に堕ちた。彼らの最大の力の源であった「聖なる奇跡」と「聖水」が、科学によって単なる不潔な水の欺瞞であったと暴露されたのだから、信徒たちの離反は止まらなかった。彼らは、自分たちの苦行や捧げ物が、全て無意味で有害なものであったことを知り、激しい裏切り感を抱いた。各地で、司祭や枢機卿に対する反乱や非難が巻き起こり、教皇庁の組織は急速に求心力を失っていった。


 トロイセンは、教皇庁の混乱を最大限に利用した。王立技術研究所の建設は最終段階に入り、フィリップとそのチームは、火砲の砲身設計を完了させていた。北方の鉄鉱石鉱脈からは、良質な原料が王都へ向けて大量に運び込まれ、高炉の建設準備が整いつつあった。


 教皇庁は、もはや武力衝突も外交的な抵抗も不可能となり、最終的な和平交渉のために、使節団をトロイセン王都へと派遣してきた。


 玉座の間は、トロイセンの勝利を象徴するように、豪華絢爛な蛮族様式で設えられていた。ロキニアスは、征服者としての威厳に満ちた姿で玉座に座り、私は彼の隣に、揺るぎない王妃として立っていた。私の背後には、フィリップ率いる王立技術研究所の研究員たちが控えている。


 教皇庁の使節団を代表するのは、最高位の老枢機卿。彼の顔はやつれ、その瞳には、かつての傲慢な光は完全に消え失せ、敗者の屈辱と絶望が滲んでいた。


「トロイセン国王ロキニアス陛下。そして、スーザン王妃殿下」枢機卿は、震える声で頭を垂れた。


「我が教皇庁は、貴国との恒久的な平和を望みます。つきましては、北方の資源採掘を完全に黙認し、王妃殿下への全ての非難を公式に撤回いたします」


 彼は、さらに屈辱的な提案を続けた。


「我々は、王妃殿下を『聖なる知恵の使徒』として公認し、殿下の知恵が神の恩寵であったと、全大陸に布告することを提案いたします。どうか、この名誉を受け入れていただき、教皇庁の存続をお認めください」


 教皇庁は、私を「魔女」から「聖人」へと昇格させることで、最後の権威を保ち、私の知恵を神の力の中に組み込み、自らの組織を延命させようという、計算高い提案だった。


 ロキニアスは、枢機卿の提案を聞き終えると、玉座から身を乗り出した。彼の低い声は、玉座の間全体に、冷たい氷のように響き渡った。


「断る」


 枢機卿は驚愕し、血の気を失った。「な、なぜですか⁉ 王妃殿下を聖人の地位に…」


「黙れ!」ロキニアスの怒声が響き渡った。「我が王妃スーザンは、貴様らのような欺瞞と嘘にまみれた組織の、虚偽の聖人位など必要としない!」


 ロキニアスは、立ち上がり、私の肩を抱き寄せた。彼の行動は、私への愛と、トロイセンの新しい時代に対する、絶対的な宣誓だった。


「我が王妃の名誉は、貴様らの言葉で決まるのではない。我が王妃は、飢餓と病から民を救い、私に真の力を与えた。彼女は、貴様らの神よりも遥かに多くの奇跡を成し遂げた知恵の女王だ。貴様らの聖人位など、彼女の足元の泥にも及ばぬ!」


 そして、ロキニアスは、最終的な和平条件を突きつけた。


「第一に、教皇庁は、トロイセン王国への全ての外交的、宗教的な干渉を、永久に断つこと。第二に、貴様らが所有する、我が王妃の故国アステリアから略奪した、全ての古代学術書、美術品、そして知識を、トロイセン王国の王立技術研究所に無条件で引き渡すこと。特に、古代の天文学と冶金術に関する写本は、一冊たりとも欠けてはならぬ」


「第三に、貴様らの組織が、私、ロキニアスと王妃スーザンに対して、二度と武力、または信仰による非難を行わないという誓約書に、教皇自身の署名と聖印をもって署名することだ。そして、その誓約書を、帝国を含む全大陸の主要国に、教皇庁自身の手で配布すること」


 これは、教皇庁の持つ文化的、経済的な基盤を完全に奪い、彼らを単なる地方の一宗教団体へと格下げし、国際的な恥辱を与える、徹底的な要求だった。


 枢機卿は、もはや抵抗する気力もなく、座り込んだまま、絶望的な声で答えた。


「……承知いたしました。陛下。貴国の要求を全て受け入れます。もはや、我々に選択肢はありません」


 教皇庁との交渉が終わり、私たちの物語は、武力と知恵による平和という新しい局面へと移行した。教皇庁から引き渡された膨大な古代の学術書と美術品は、王立技術研究所の貴重な財産となり、フィリップを始めとする研究者たちを、新たな研究へと駆り立てた。


 王立技術研究所は、正式に開所し、フィリップたちは火砲の設計を完了させた。北方の鉄鉱石が運び込まれ、グスタフの指揮の下、帝国の資料を基にした高炉の建設が急速に進んでいる。トロイセン独自の科学の時代が、本格的に幕を開けたのだ。


 その夜、ロキニアスは私を抱きしめ、静かに言った。


「スーザン。貴様がこの国に来た時、私はただの蛮王だった。だが、貴様は私を、大陸最強の知恵の王の夫にした。貴様の愛と知恵は、このトロイセンを、永遠に続く王国へと変貌させるだろう」


 私は、彼の胸の中で、深い満足感を覚えた。私は、生贄の皇女から、蛮王の愛と科学の力を持つ絶対的な王妃へと登りつめた。私の知恵は、このトロイセンの地で、最高の価値を見出されたのだ。


「王よ。わたくしの知恵は、これからもあなた様と、このトロイセンのために使われます。わたくしたちの結合こそが、このトロイセンの運命の完成なのです」


 私は、彼の激しい鼓動を聞きながら、次の段階、すなわち火砲の試射と帝国の反応を巡る、新たな展開に思いを馳せた。

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