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虐げられし陰の皇女ですが、生贄嫁いだ隣国で「蛮王」に甘く愛され、飯テロ&内政チートで国を救うことになりました  作者: 夏野みず
水の改革と、帝国からの経済制裁

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裏切りの子らの目覚め

 教育改革と聖堂改修という二つの巨大なプロジェクトはロキニアス王の絶対的な権力と、グスタフ宰相の恐るべき実行力によって驚くべき速度で進んでいた。


 私の安楽椅子は今や王国の二大改革を指揮する総司令官席となっていた。ロキニアスは王都の郊外にある広大な土地を一日で接収し、建設用の石材と熟練の職人を集めた。彼が「蛮王」として恐れられているのはその迅速で、一切の躊躇がない実行力ゆえなのだろう。


「スーザン。学校の建設は三週間で基礎が完成する。聖堂の改修は貴様が求める複雑な仕掛けゆえ、あと一ヶ月はかかる見込みだ」


 彼、ロキニアスは政務の報告書よりも私自身が設計した「奇跡の舞台」の図面を熱心に見ていた。


「貴様の知恵は本当に人を驚かせる。こんな複雑な水の流れと、火の仕掛けをあの古い聖堂に組み込むとはな……。まるで巨大な玩具を組み立てるようだ」


「王よ。玩具ではありません。これは信仰という名の鎖を断ち切る、解放の仕掛けです」


 私は彼の隣で、最も繊細な作業である旧貴族の子弟の登用を進めていた。


 毒麦事件に関わった貴族たちは既に彼自身によって処断された。残された子弟たち、特に高等教育を受けた二十歳前後の若者たちをグスタフ宰相が私の前に連れてきた。彼らの顔にはプライドと、父の処刑を見せられた屈辱がはっきりと刻まれていた。


「こちらが王妃殿下の指示により、未来の教師として集められた者たちにございます」グスタフが恭しく頭を下げた。


 彼らの一人、最も傲慢そうな目をした青年が前に進み出た。彼の名はフィリップといった。かつては王都で最も高名な学者に師事していた旧体制のエリートだ。


「魔女よ……。我らをこのような蛮族の教育係にしようとは。我々の父祖を処刑した上に、その知識をこの忌まわしい国のために使えというのか」


 彼は私を「魔女」と呼び、侮蔑の言葉を隠そうともしなかった。


 彼の激しい抵抗は私の予想通りだった。知識を権威の源としてきた彼らにとって、その知識を蛮族に分け与えることは最大の屈辱なのだ。


「フィリップ殿」


 私は安楽椅子から彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。彼らのように、高度な知識を持つ人材を単純な労働力として追放するのはあまりにも惜しい。


「あなた方の父祖は愚かさゆえに滅びた。彼らはわたくしがもたらした知恵を理解せず、己の旧い権益に固執した」


 私の言葉にフィリップは鼻で笑った。「知恵⁉ 貴様の異国の知識など、この大陸の聖典の足元にも及ばぬ」


「そうでしょうか」私は微笑んだ。


「フィリップ殿。あなた方は文字の読み書き、古代の哲学、そして簡単な算術を学んだ。しかし、なぜ水は高いところから低いところへ流れるのか、なぜ病気が人から人へ移るのか、なぜ土を耕すだけで作物が毎年育たないのか……それらの『原理』をあなた方は知っていますか⁉ 」


 彼は何も答えられなかった。彼らの教育は知識を「暗記」し、「権威」として振りかざすためのものであり、「原理」を理解し、応用するためのものではなかったのだ。


「わたくしが教えるのはこの世界の根源にある『原理』です。そしてその原理を理解することこそが、あなた方がかつて崇拝した神聖教団国家の『奇跡』の正体なのです」


 私は彼らが最も関心を寄せる「奇跡」という言葉を使った。


 私は彼らに目の前で実験を披露した。


 汚れた水をミョウバンの粉末で浄化してみせた。 硫黄と硝石と炭を混ぜ、火打石で一瞬にして閃光と煙を発生させてみせた。


「この白い粉を少し水に混ぜるだけで、汚れた水は飲めるようになる。この黒い粉に火を当てると雷鳴のような轟音と閃光が生まれる」


「これは……⁉ 」フィリップの瞳が驚愕に見開かれた。


「フィリップ殿。あなた方の祖国ではこれを『聖水』の奇跡、『聖火』の奇跡と呼んだ。しかし、これはただの科学、誰にでも学べる知恵の応用です」


 私は彼らのプライドを打ち砕くのではなく、彼らの持つ知識をより高度で、より強大な力へと昇華させる道を示した。彼らが知識の絶対的な真実を見たとき、彼らの心の中にあった旧体制への忠誠心は音を立てて崩れ始めた。


 フィリップは膝から崩れ落ちそうになった。「そんな……。我々があれほど神聖なものとして教えられてきた奇跡が、こんな……ただの粉と水で……」


「はい。だからこそ、あなた方はこの知恵を学ばなければなりません。そしてあなた方の手で、トロイセンの子供たちにこの『奇跡の原理』を教えるのです」


 私が求めているのは彼らの魂の転向だ。彼らが新しい教育の教師となることで、彼らは旧体制の裏切り者となる。彼らはもう二度と旧勢力には戻れない。彼らの知識は完全にトロイセンの未来のために組み込まれるのだ。


 彼らは屈辱から、この新しい「科学」という名の権威に支配されること、そしてその支配者である私、スーザンという王妃に畏敬の念を抱き始めたのだった。


 ……そして一ヶ月が経過した。


 学校の建設は順調に進み、旧貴族の子弟たちも私の教えに没頭していた。彼らの顔つきは変わり、もはや屈辱ではなく、新しい知恵の探求者としての使命感を帯び始めていた。


 聖堂改修も完了した。


 グスタフ宰相は私の設計図を完璧に再現した。祭壇の下にはろ過装置とミョウバンを投入するギミック。祭壇の上部には火薬を仕込み、遠隔操作で発火させる装置。全てが緻密に、そして完璧に隠蔽されていた。


「王妃殿下。貴方の描かれた『奇跡』はいつでも舞台に上がれます」グスタフは私に深々と頭を下げた。


「ええ。ありがとう、グスタフ。あなたの仕事は完璧でした」


 残るはロキニアス王が発した布告を待つだけだ。


「明日、トロイセン王国の王妃、スーザン様が、神聖なる聖堂において、神の啓示による真の奇跡を民衆に示す」


 この布告は王都を興奮の渦に巻き込み、教皇庁の密偵たちを震え上がらせるのに十分なものだった。


 その夜ロキニアスは私の部屋で、私を抱きしめながらその銀色の瞳に熱烈な愛を灯していた。


「スーザン。明日、貴様はこの世界の権威の全てをひっくり返す。私、ロキニアスは貴様の知恵が、奴らの信仰を打ち破る瞬間を見るのが楽しみでならない」


 彼は私の手の甲に口づけを落とした。


「貴様の安全は私の全軍が保証する。何も恐れるな」


「恐れてなどいませんよ、王よ」私は彼の胸に顔を埋めた。


「わたくしの奇跡は剣ではなく、知恵です。そしてわたくしは、このトロイセンの民に、この知恵こそが彼らの未来を照らす真の光であることを教えます」


 明日、私はこの世界の信仰という名の古い鎖を、私の科学という名の剣で一刀両断にしてみせる……。

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