王の決意と、スーザンのための永遠の休息
神聖教団国家の使節団が、凄まじい轟音に打ち砕かれて退去した後、トロイセンには、スーザンの【最後の知恵】がもたらした【六ヶ月の猶予】が訪れた。この平和は、脆く、時間制限付きではあったが、彼女が命懸けで勝ち取った尊い時間だった。
ロキニアス王は、使節団が去った後も、スーザンの側を離れなかった。彼女は完全に意識を取り戻し、体調も急速に回復していたものの、王は、彼女の疲労を目の当たりにし、深く反省していた。
「貴様は、私に【国を守る力】を与えてくれたが、その代償として、貴様の身体を削った。私は、貴様の知恵に頼りすぎた」
ロキニアスは、スーザンの手を握りながら、静かに、そして激しい決意を持って語った。彼の銀色の瞳には、もう焦燥の色はなかった。あるのは、愛しい王妃を守り抜くという、揺るぎない覚悟だけだった。
「スーザン。貴様は、トロイセンにとって、私よりも遥かに価値がある。貴様の知恵と命が、この国の未来だ。私は、貴様が二度と、自分の命を危険に晒すような戦いをしなくても済むよう、【私自身の力】で、この国を絶対に守り抜くと誓う」
ロキニアスは、この六ヶ月を、火薬の安定生産だけでなく、【スーザンのための時間】に充てることを決意した。彼は、彼女の健康と、彼女がこの世界で本当に望む【平和な日常】を取り戻すことが、何よりも重要だと知っていた。
「王よ……わたくしは、王の隣で戦えることが喜びです。ですが、わたくしの知恵は、あくまで【道具】です。王の剣と、民への愛こそが、この国を導く真の力です」スーザンは、弱々しくも微笑みながら言った。
「その道具がなければ、私の剣は無力だった。だからこそ、私は貴様を守る。貴様には、二度と【魔女】と呼ばれることも、【生贄】として扱われることもない、永遠の安全を与える」
ロキニアスは、彼女の体を抱き上げ、私室の隣にある、これまで使用されていなかった小さな別室へと連れて行った。そこは、彼の私費で改装されており、外からの騒音は遮断され、暖炉が常に温かい空気を保っていた。
「ここを、貴様の【工房】と【書斎】にする。貴様が望む限り、誰にも邪魔されない【知識の殿堂】だ」
さらに、ロキニアスは、スーザンのために特別に職人に作らせた【ある物】を披露した。それは、この世界の常識を逸脱した、贅沢で快適な家具だった。
「これは……」
それは、表面に柔らかい獣の毛皮と、内部に良質な羊毛が詰め込まれた、深く沈み込む【安楽椅子】だった。その横には、高さが調整でき、本や書き物をするのに最適な【可動式の読書台】が設置されていた。
「貴様が、休むことを覚えるまで、この場所から一歩も出る必要はない。必要な情報は全て私が運び、危険な実験は全て私が監督する。貴様は、ただその椅子に座り、好きなものを読み、好きなものを書き、そして【休息】だけをすればいい」
これは、ロキニアスからの【愛の証】であると同時に、【安静の命令】だった。彼は、彼女が疲労で倒れるたびに心が張り裂けそうになるのを恐れていた。彼の激しい独占欲と愛情は、彼女の安全と快適さを確保するという形で表現されたのだ。
スーザンは、その安楽椅子の深く、温かい座面に身を沈めた。座面は彼女の体を優しく包み込み、これまでの過酷な日々から解放されたような感覚に陥った。彼女の目からは、知らず知らずのうちに涙がこぼれ落ちた。
「王よ……こんなに、贅沢なものを……」
「贅沢ではない。これは、私の【王妃】が当然享受すべき【報酬】だ。貴様がこの椅子に座っている間、私は【蛮王】として、このトロイセンを、貴様の知恵を守る【鉄壁の城塞】に変えてみせよう」
ロキニアスは、スーザンが再び立ち上がる必要がないよう、政治、軍事、そして【火薬の安定生産】の全てを、自らの絶対的な権限の下で統制することを誓った。
スーザンは、彼の強く優しい腕の中で、この世界に来て初めて、心から安らぎを覚えた。六ヶ月の猶予は短いが、彼女の知恵とロキニアスの力があれば、必ず乗り越えられると確信した。彼女は、目を閉じ、王の温かい体温を感じながら、深い眠りについた。




