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虐げられし陰の皇女ですが、生贄嫁いだ隣国で「蛮王」に甘く愛され、飯テロ&内政チートで国を救うことになりました  作者: 夏野みず
王妃への道のり

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内政改革の第一歩と、ロキニアスとの距離の急接近

 王妃候補に正式に指名されてから、スーザンの王宮での生活は一変した。帝国時代の「陰の皇女」の立場とは比べ物にならないほど、彼女はトロイセン王国の最も重要な中枢へと組み込まれたのだ。


 彼女の初仕事は、ロキニアス王と二人だけの秘密、食糧流通の不正改革だった。


 スーザンは図書館と資料室にこもり、グスタフ宰相が渋々提供した膨大な書類と、自ら収集した情報をもとに、神眼アプレイザルを駆使してトロイセンの経済構造を分析した。


(トロイセンの食糧不正は、単なる横領だけじゃない。根本的な原因は、非効率な税制と記録管理の杜撰さにあるわ)


 神眼が暴き出したのは、流通に関わる貴族や商人が、納税を逃れるために穀物や保存食の品質を偽って申告し、余剰分を闇市場に流すという単純な手口だった。この不正は、記録が複雑すぎること、そして検品体制が甘いことによって、長年野放しにされてきたのだ。


 スーザンは、すぐさまロキニアス王に改革案を提出した。それは、前世の地味なOL経験で培った、極めて実務的かつシンプルな内容だった。


「王よ。この流通の不正を、一度にすべて摘発するのは危険です。血を流さずに解決するためには、まず不正の『メリット』を消すことです」


 彼女の提案は三つ。

 一つ目は、食糧の品種と等級を統一し、記録を単純化すること。

 二つ目は、王宮への献上品と納税品のチェックに、ルーナら王直属の監視員を配置し、献上品の品質が規定以下であれば、即座に厳罰を適用すること。

 三つ目は、不正を報告した者には、税の減免というメリットを与える、一種の内部告発制度の導入だった。


 ロキニアスは、スーザンの提出した数枚の簡潔な文書を見て、驚きを隠せなかった。


「これは……血を流さず、悪党どもを内部から崩壊させる手法か」


 彼の戦略は常に「力」によるものであり、このような緻密で平和的な内政手法は、彼の発想になかったものだ。


「はい。武力ではなく、知恵と仕組みで不正を是正します。王が力を振るうのは、この仕組みに反抗した者のみです」


 ロキニアスは深く頷くと、その改革案に即座に承認を与えた。


「よかろう。すべての実行権限は、お前に委ねる。グスタフには、私が圧力をかけておく」


 スーザンが改革案を実行に移し始めると、王宮内の空気は目に見えて変わり始めた。献上品の品質は向上し、王宮に届く食材の鮮度と栄養価が改善された。その結果、ロキニアス王の食事の質もさらに上がり、彼の体力と精神力は、完全に全盛期を取り戻した。


 そして、この成功は、ロキニアスのスーザンへの信頼と溺愛を、さらに加速させた。


 彼は、公の場では依然として冷酷な蛮王の仮面を被っていたが、二人きりの私室では、完全にスーザンに依存していた。


 夜の執務中、ロキニアスは、彼女が静かに本を読んだり、資料を整理したりしている私室の隣の小部屋で作業をするようになった。


 ある晩、スーザンが資料の整理を終えて小部屋を覗くと、ロキニアスは珍しく仮眠を取っていた。


(彼の寝顔……こんなに安らかな顔をするのね)


 彼の銀色の髪が、頬に柔らかく散っている。昼間の威圧感は消え失せ、ただ疲労困憊の孤独な男の姿があった。


 スーザンが静かに引き返そうとした、その時。


 ロキニアスは、寝言のように低い声を発した。


「行くな……スーザン」


 そして、彼は寝台から手を伸ばし、スーザンのローブの裾を、まるで迷子になった子供のように、ぎゅっと掴んだ。


 スーザンは驚いて立ち止まった。彼の掴む力は強く、逃れることはできない。


「王よ……わたくしはここにいます」


 スーザンが優しく声をかけると、ロキニアスはゆっくりと目を開けた。彼の銀色の瞳は、まだ夢と現実の境を彷徨っているようだった。


「ここに、いるのか」


 彼はスーザンの手を引き、自分の寝台の端に座らせた。そして、彼女の手を自分の大きな手に包み込み、そのまま顔を埋めた。


「そなたの温かさがなければ、私はまた、戦場にいる夢を見る」


 彼の声は、誰にも聞かせられないほど弱々しく、そして切実だった。


「そなたは、私の毒だ。だが、私の命綱でもある。スーザン、婚礼までの間も、私の傍から離れるな。一歩たりともだ」


 ロキニアスの独占欲は、もはや単なる寵愛ではなく、彼女の存在そのものを自分の生存に必要なものとして組み込む、激しい執着へと変わっていた。


 スーザンは、彼の手から逃れようとは思わなかった。彼の孤独と重圧を理解した今、この蛮王を救えるのは、自分だけだと感じていた。


「はい、王よ。わたくしは、王の傍を離れません。必ず、この国を、そして王の体を、健康な状態に戻します」


 彼女の決意と温かい言葉が、ロキニアスを深い安堵感で包み込んだ。二人の距離は、公的な「王妃候補と王」という関係を超え、互いの存在を必要とする唯一無二の夫婦へと、急接近していた。

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