普通に失礼
午後一時四十分
「この資料をご覧ください!」
会場に設置された巨大なモニターに映し出されたのは、諮問委員会が作製した資料、『本年度における部活、サークル維持費についての決算書』だった。本年度、大学が提供した予算と、部活動、およびサークルから徴収した維持費がグラフとして書かれている。
「この資料は、本大学においてどれだけの部活、サークルがあるか、そしてそれがどれだけ大学の予算を圧迫しているかを示したものです!」
ロクマが堂々と語る。それを見る観衆も、先ほどの音声トラブルなど無かったようにその資料に見入っている。
「おい、想定通りの資料だ。ミツメは準備しておけ」
「了解」
水面下で進行するフェーズ1に気づいている者は一人もいない。
「これを見れば、部活、サークルの数を減らすという我々の方針に、より納得いただけるのではないでしょうか」
ロクマの問いかけに、「そうだそうだ!」と賛同する声が上がる。先ほどの挽回が、ロクマと観衆の間により強い信頼を獲得させてしまったようだ。
「野党か」
ぼそりと呟いたイチジョウの言葉に、思わず笑いだしそうにあるイヌマキ。
「ましてや、意味のない破壊、侵入行為ばかりを行う悪徳サークルなど、必要あるのでしょうか」
観衆が再び「そうだそうだ」と言おうとした時、凛とした声が会場に響く。
「再びお時間、よろしいかしら!」
静まり返る会場の中起立した人物に、全員の視線が集まる。
「件の事故物件完全攻略サークル奥の院、そのサブリーダーのミツメと申します」
再び奥の院のメンバーが現れたことに対して、イチジョウの時とはまた違った意味で会場が騒めく。「女もいたのか」と。そのような会話がゴソゴソと耳に入ったミツメは、周囲に嘲笑の意味を込めて鼻で笑う。
「失礼ね。女がいて悪いのかしら。私は四年生だけど、ぴちぴちの一年生の女の子もいるわよ。ほらここ」
そう言ってミツメはイヌマキの手首をつかんで、彼女を無理やり席から立たせる。大勢の前で高々と手を挙げる形となったイヌマキは恥ずかしさに俯きそうになるが、ここで負けてはいけないと堂々と正面を見据えて声を発する。
「事故物件完全攻略サークル奥の院、一年生のイヌマキです!」
そう言った後、彼女は足先が小刻みに震える感覚に襲われた。それは恐怖心もあっただろうが、自身を奮い立たせた後に来る、勝機の余韻でもあった。
「それは分かった。早く意見を述べたまえ!」
聴衆の意識が奥の院にスライドされないようにと、ロクマは彼女らを急き立てる。
「まあそう焦らずに、委員長。それとも、長いこと話してたら、自分のぼろが出ちゃうのが怖いのかしら」
「なに……」
ロクマはピクリと反応する。まさか自身の企みが、敵に知られているのか。いや断じてそんなことは無い。ノノミヤとの関係は、彼と彼女だけにしまわれているはずだと、ロクマは冷静を取り戻そうと努める。
「ふっ、根拠のないことを。私の気を乱すつもりだろうが、あまりにも浅はかだぞそれは!」
「根拠も何も、事実じゃない。諮問委員会なんて、ただ派手なパフォーマンスで、中身の全くない悪徳組織じゃない。なら不動産業者に役に立ってる私たちの方が、幾分かマシじゃない?」




