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瓦解の兆し

お久しぶりです。本日より隔日で、投稿を再開する所存です。お待たせして申し訳ございません。

  午後一時三十分


「では、改めて資料を用意しましたので、前のスライドを……」


 ガガッという不快な音を立てて、ロクマの話すマイクの調子が悪くなる。彼はマイクをとんとんと叩き、治ったと思い話し出すと、次は思わず耳を塞ぎたくなるような高温のハウリングが発生する。聴衆は一斉に顔をしかめる。


「……失礼、これは……」


 彼が弁明しようとすればするほど、鼓膜を刺激する高音波がホール内を駆け巡る。埒が明かないと思ったロクマは、諮問委員会の部下にマイクの交換を促すジェスチャーをした。


「さっきまで普通だったのに」


「まあ、こういうこともあるよね」


 聴衆も、不快には思ったものの、不運なアクシデントとして寛容に受け入れている様だった。


 新たなマイクを渡されたロクマは咳ばらいをし、改めて本題に戻ろうと息を整えた。


「遅れましたが……えっ」


 ロクマの動揺と全く同じ反応が、聴衆からも起こった。音声の途切れやハウリングは発生しなかったものの、マイクを伝ってスピーカーから流れる声は、全く別人の声になっていた。ワイドショーでよく見られる、犯罪者の肉声を隠すために加工される音声。彼の声はそれを彷彿とさせた。


「すみません、これは……うわっ」


 一度はただの不調と思い、再びマイクに向けて喋ったロクマは、思わずそれを床に落とした。ロクマの声は、甲高い女の声としてスピーカーに流れた。肉声とも、機械音とも言えぬ不気味の谷の音声に、流石に聴衆も不気味なものを感じたようだ。


「なに、これ」


「さっきからおかしくない?」


「怖いよ……」


 どうなってる、とロクマは音響を担当している部下をこっそりと呼び寄せる。


「始まる前、マイクテストをやっていたじゃないか」


 不穏に掻き立てられ、騒然とし始めた会場。演説台の陰に隠れ、ロクマは部下を問い詰める。


「も、もちろんです。そのために予備のマイクもこんなに用意していたんですが……」


 まさか、全てのマイクがこのような不気味な不調を起こすとは考える由もないだろうと、ロクマは部下への責任追及を止める。


「もういい」


 そう言いながら一呼吸、ロクマは通常の様子に戻ろうと努め、再び演説台にのぼった。その手には、もうマイクは握られていなかった。


「皆様! 先ほどは失礼いたしました! 音声トラブルにより、今後はマイクなしでお話させていただきます。お聞き苦しいかもしれませんが、ご容赦ください!」


 一度絶大な支持を得た者と言うのは、少しの事では評判を落とさない。少しペースが乱れてしまったが、このトラブルに対しての、迅速かつ大胆な対応は、委員長としての威厳を保つのには十分だった。


「今のところは、ね?」


 挽回に成功したことに薄らと笑みをこぼしているロクマを席から眺めながら、ミツメがそう言った。



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