フェーズ1
「ふん、随分と調子が良さそうじゃない」
それと同じ瞬間、ミツメもこっそりと呟いた。
「まあ、痛いところを突かれたのは確かだな」
イチジョウはそう言いながらも、彼に大きな釣り針を上手く掛けることができたと出、口元に笑みをこぼした。
「すみません。一つ、よろしいですか」
そう大声を出して椅子から立ち上がったイチジョウ。騒然としていた会場が静まり返る。
「件の事故物件完全攻略サークル奥の院、そのリーダーのイチジョウです」
会場は再びざわめき、全員がイチジョウに注目する。聴衆の目は、明らかに敵意、嫌悪が宿されている。その視線はイチジョウに向けられているものの、隣に座るイヌマキは自身にもそれが向けられ居るような心地になって、ぐっと俯く。ロクマはイチジョウを睨んでいる。「討論はしないと言っただろうが」とでも言いたげな目で。
「我々の活動の事実に、少し反故がありましたので、そこだけ訂正を。……ロクマさんの話を聞くと、我々のことを頭のおかしい連中だと思われると思います」
何て言うんだろう。とイヌマキは俯きながら考える。
「それはその通りです」
イヌマキは前のめりに倒れそうになり、聴衆は笑い出した。
「なにそれ」
「やっぱりおかしい人たちだわ」
「おい、もう終わりでいいだろう」
ロクマも身構えていたものの、あまりの馬鹿馬鹿しさに思わず笑いだす。
―なんだ、こんな場所を用意させておいて、何か策があると思っていたが、ただ無策で言い争いに来ただけか? 底知れぬ阿呆どもだ。こいつらを標的にして正解だった。
ロクマがそう心で勝利を確信し、意気揚々と再びマイクを握る。
「言いたいことは、それで終わりですか」
イチジョウらの沈黙を、肯定と受け止めたロクマが話を続ける。
「反論がないなら続けさせていただきます。まず幽霊などと言う架空の存在を、あたかも実在し、そして敵の様に扱う……。正気の沙汰ではありません。では皆さん、これより作成した資料を交えながら、奥の院廃部の妥当性についてより深く納得していただきます」
己の優勢を確信したロクマは、聴衆をどんどんと味方につけるように、本筋から逸れたことを嬉々として語り始める。
「……こっちが何もしなきゃ、すぐ調子に乗る……。幽霊とおんなじね」
ぼそりと呟いたミツメは、うすら微笑んでいた。それを皮切りに、奥の院一同のアイコンタクトが交わされる。ついに始まる。反撃の狼煙が上がる。それを、心から待ちわびていた笑みを浮かべながら。
「……これより、フェーズ1を開始する」
沸き立つ聴衆の歓声の中、しかし確かにイチジョウの声はイヌマキに届いた。




