復讐の誓い
「……どうされましたか」
イチジョウの声に、ロクマはハッと我に返る。昔のことを思い出しているうちに、随分と長い時間が経過していたようだった。
「どうも、すまなかった。少し考え事を」
「苦労もされているようで」
こちらを見抜いた気になっているイチジョウに、苛立ちを隠さずにロクマは言う。
「随分と余裕な態度だが、恥をかくのはあなた達だということを先に言っておこう。所詮オカルト好きの事故物件愛好会のお遊戯会ごときが、諮問委員会と同等の名誉を所有していると認識しているのは甚だ勘違いだということだ。その事実が、学内にさらに広まることになるぞ」
「それでも結構です」
相手を何とか揺さぶろうとするロクマの思惑に反して、イチジョウは毅然とした態度を貫いた。
「……そうか」
ここまでくると、もう何を言っても動じないのだろうとロクマは思った。何か勝機があるのか、それとも自暴自棄になっているのか。そこまでは分からなかった。
「……日時はこちらが決めさせてもらう」
ロクマがそう言うと、イチジョウはゆっくりと頷いた。
「すべてお任せしましょう」
「ああ。すべて決定したら、改めて連絡しよう」
「ありがとうございます」
そう言うとイチジョウは、本部を立ち去ろうと踵を返し、部屋の出口へ向かって行った。ロクマはその後ろ姿を見ながら、食えない奴だと毒づいた。決して会話のペースを相手に乗せさせまいという圧力と話し方。伊達にサークルのリーダーを務めていないなと、嫌悪の半ば感心していた。
「委員長のロクマさん」
出口の手前で、改めてイチジョウは振り返った。その姿からは、異様なほど落ち着きと、至極冷静な微笑み。しかしそこに敵意のようなものは感じられなかった。それが逆にすさまじいものに感じて、ロクマも流石に身構える。
「……なんだね」
「私たちの活動がオカルト好きの事故物件愛好会のお遊戯会だということは認めましょう。……しかし、人間が利益を追求せずに行う活動と言うのは、総じてお遊戯会も同然であると私は、私たちは思っています。大衆に受け入れられるか、そうでないか。それだけの違いしかない。そしてその違いは、優劣に一切関係の無いことです。その視点で見れば、我々奥の院も、あなた達諮問委員会も、大した差は無いのかもしれません」
長々と失礼しました、と言い残し、イチジョウは諮問委員会本部を去っていった。
一人残されたロクマは、彼が最後に残した言葉の意味を考えた。「利益を追求せずに行う活動」……。ロクマは、諮問委員会に配属されて間もない頃のことを思い出した。自身の利益になることなど一切考えず、ただ学内の人々のために頑張ろうと考えていたあの頃。結果的に嘲笑されてしまったあの時の努力を。それを唯一認めてくれたノノミヤのことを。
彼の中で、盤石に固めた自身の基盤が、今ふらりと揺らいだ気がした。だがそれは一瞬のことで、ロクマは再び今の自分を思い出した。
「俺は強い。奴らにないものもすべて持っている。そんな俺の活動と、あいつらのやっていることが同じだと……? ふざけるな」
ロクマはその時、公開説明会の開催場所を決定した。大学記念ホール。大学の中で最も多くの人間を収容できるホール。あらゆる人脈と権力を駆使して、千人を超える観衆の中で、奴らに一世一代の恥をかかせてやると、その時ロクマは誓った。
「事故物件完全攻略サークル奥の院。俺がその歩みを断ち切ってやる……」




