鹿摩
学生部という組織の中で、諮問委員会は『お遊戯会』と揶揄されるほどに仕事がない委員会として虐げられてきた。学生たちの風紀を守るという役割ではあったが、そう言った役割が重要視されるのは高校までの話である。結果的に諮問委員会とは名ばかりの存在で、部活、サークルの上位組織の中でも、所謂『窓際』と軽蔑されていた。ロクマが委員長になるまでは。
彼は諮問委員会に所属するまでは、文学研究サークルの部員であった。現在の姿とは別人の様で、世間一般で言うオタクのような見た目だったロクマは、細々とサークル生活を楽しんできた。愛する書籍を、共に読書を愛する者同士で語り合うのは楽しかった。ロクマが三年生になったある日、彼の温厚な人当たりの良さと、日ごろのサークルへの貢献が実を結び、上位組織への勧誘を受ける。元々は運動部など、ヒエラルキーの高い部活の部員しか上位組織に上がれないという暗黙の了解があっただけに、ロクマはその勧誘を喜んだ。自身の人格が認められ、文化部への偏見が無くなった証拠なのだと。
しかし実際に飛ばされたのは、お遊戯会同然の諮問委員会。その委員会に配属された誰もが覇気のない暗い連中だったため、定例総会の報告に駆り出されるのはロクマだった。定例総会ではサッカー部やラグビー部出身の委員会が中心となり、ロクマのことを気に掛ける者はいなかった。それでも彼は、できる責務を全うした。学内の風紀を守るため、ごみ拾いを行ったこと、挨拶習慣を作ったことなど。しかしその報告は、他の組織の連中に鼻で笑われたのみだった。
『やはり、文化部の俺に、そんな資格は無いのか』
実際は、運動部の彼らが地味な仕事をしたくないという理由から埋め合わせで指名されたということに気が付いた頃には、もう戻れなくなっていた。
これからのことを辛く考えながら隅の席で総会が終わるのを待っていた時、隣にいた一人の女学生に話しかけられた。
「ねえ、あの人たち笑ってるけど、あなたが一番良い報告してたと思うよ」
その一人の女学生こそが、当時の諮問委員会書記であるノノミヤだった。彼女は当時のロクマとは正反対の派手な格好をしており、カースト上位の男たちに気に入られてもおかしくはないほどの美貌を持っていたが、なぜか諮問委員会に任命されていた。ロクマと同時期に配属されたが、一目見ただけでタイプが違いすぎるとロクマが判断し、彼から声をかけることは無かった。常に斜に構えたノノミヤの態度から、彼女もロクマのことを馬鹿にしているのだろうと彼は踏んでいた。もしかしたら、運動部の連中が考えた悪質な罰ゲームなのかもしれないと。そのため事務的な関係をこれからも貫いていこうと考えていた矢先に、不意にこんなことを言われたロクマは、目の前の世界に色がついてゆくのを感じた。
「あ、ありがとう……」
唐突だったためにあやふやな返事しかできなかったロクマに微笑みを見せて、ノノミヤが小声で言う。
「あなたとこうしてちゃんと喋るの、初めてだよね。委員長と副委員長の関係なのに、なんか話しかけづらくって……。でも今の報告で、あなたが誠実で優しい人だって分かったよ。こんな窓際委員会だけどさ、一緒に頑張っていこうよ」
そう言ったノノミヤは、再びいつもの調子に戻り、定例総会の様子をつまらなさそうに観察し始めた。
その後のことは、取り立てて言うまでもない。血のにじむような肉体改造と社交性を身に着ける訓練を続けたロクマは、学内の多くの女学生を虜にするカリスマ性を手に入れた。かつてのような清掃活動や挨拶習慣は取りやめ、少しでも目につくようなことをする生徒を徹底的につるし上げた。なるべく派手な演出で、時々八百長を仕込んだ活動は話題となり、急激にフォロワーを増やした。結果諮問委員会の知名度は向上、風紀活動は多くの人に評価された。わずかな期間で委員長にまで昇進、忠実な部下もついてくるようになった。
しかしロクマは満ち足りていなかった。文学研究サークルの際とは比べ物にならない程の地位と名誉を手にしてもなお、ノノミヤの心だけは掴むことができないままでいた。あの時の微笑みを再び自分に向けてほしい。強くなった自分を、正しく尊敬し、愛してほしい。
そんな願いを叶えるため、ロクマは奥の院を潰す必要があった。




