大学記念ホール
一月三十一日
大学記念ホール
「えー。それでは皆さん、お集まりでしょうか……」
大学学生部、諮問委員会委員長であるロクマが、マイクのテストを兼ねて舞台に立った。
「本日は、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
大学記念ホールは、本大学が建設された際に建てられた、千人以上が収容可能な大ホールである。普段は入学式や卒業式に使われるそこは、本日は諮問委員会が開催する`ある集会`に使われていた。
「それでは只今より、『本大学公序良俗に反するサークル解体における説明会を開始します。私、諮問委員会の委員長、ロクマです。本日は私が司会兼代表説明者を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします』」
ロクマが頭を下げたと同時に、ホール内から黄色い歓声が巻き起こった。サークル解体における説明会など、恐らく誰も興味ないが、ロクマを合法的に眺められるという理由から、千人規模の会場を埋め尽くすほどの聴衆が集まっていた。
ロクマはこの集会を面倒に思いながら、ファンの子たちがこうしてもてはやしてくれるのなら悪くない、と思い始めていた。
―数日前。ロクマの本拠地である諮問委員会本部に、来訪者が現れた。
「これはこれは、確か……、イチジョウさん?」
「ええ」
現れたのは、イチジョウと名乗る男。ロクマが廃部を命じた、事故物件完全攻略サークル『奥の院』の部長を務める男だった。
「直談判に来てもらっても、本部の意向は変わりませんよ」
ロクマは、藁にもすがる思いで来たであろう来訪者に、毅然とした態度を貫こうと考えた。ここで隙を見せるわけにはいかない。全てはノノミヤとの安寧たる未来のためなのだから。
「いえいえ。そんな諦めの悪い者たちだと思われても困ります」
しかしイチジョウは、ロクマの排他的な態度に臆さず、余裕を見せて言った。
「廃部と言うのは、受け入れざるを得ないでしょう。私たちにも落ち度はありますから。ただ……」
イチジョウがそこで、少し笑みを浮かべたのを、ロクマは見逃さなかった。
「しっかりと、説明していただきたいと思いまして。『公の場』で」
「ほう……」
そう来たか。とロクマは思った。確かにそれは彼が少なからずも懸念していたことでもあった。何の断りもなしに、問答有無用で権力を乱用する集団と思われてしまうのでは、と薄々は感じていたのだ。
「そういう場を開けば、君たちは納得していただけるのかな」
ロクマは、イチジョウを値踏みするような目で見つめながら言った。この男の考えていることの真意を、見抜いてやろうと。
「ええ。そこまでしていただいて、周囲の人間たちの納得が得られるのであれば、潔く受け入れます。これは、他の部員全員にももう伝えています」
ロクマは内心、少し面食らっていた。前回、第二演習室で廃部を伝えた時は、少なからず動揺を感じ取れた。だが今、直談判をしに来ているイチジョウからは、そんな様子が微塵も感じられなかった。
「……公開説明会、とでもいうべきでしょうか。そんなことをして、あなた達の部の存続が叶うとお思いで? 我々と討論を起こしたいと?」
「全く、そんなことはありません。諮問委員会人たちに敵意は無い。これもあなた方の責務なのですから。であれば、全員が納得できる形で正式に我々を廃部にした方がよろしいでしょう。あなた方の権威、そして我々の名誉のためです。諮問委員会は責務を全うし大学の風紀を守る。奥の院は過去を顧みて反省し、表舞台から去る……。お互いが、潔く、綺麗にこの話を完結させるにはうってつけだと思うのです。悪い話ではないでしょう。諮問委員会の名誉のためでもあるのです」
諮問委員会の名誉。その言葉に、ロクマはピクリと反応する。




