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帰還……?

 気づけばイヌマキは叫んでいた。部屋の空気が揺らぐ、これほどの大声を出したことがなかった彼女は、体の奥が震えるのを感じる。


「怖いのです。私はとても……」


 イヌマキの叫びに一時は圧倒されていたミツメが、天邪鬼な子供に呆れるように言う。


「だから、無理しなくていいって……」


「怖いのは、除籍なんかじゃありません。確かに奥の院を去っても大学生活は続くし、一年生はこれからです」


 「そう思うなら尚更」と反論しようとするミツメを、イチジョウたちが止める。最後まで聞いてやることが、最大の尊重だと言いたげに。それに甘んじ、イヌマキは続ける。


「一番怖いのは、幽霊よりもロクマよりも怖いのは……、このまま何もなかったことにして、普通の日常に戻ってしまうことだと、気づいたのです。私はこれまで逃げてきました。『自分が傷つきたくない』一心で、全てを妥協してきました。自分の弱さを知るのが怖くて、一世一代の好機を無視し続けていたのです。結果はすべて中途半端。華の無い学生生活を送ってきた原因は自分にあったのです」


 もはや誰も、イヌマキの言葉を遮ろうとはしなかった。外ではひと際強い北風が吹き、談話室の窓を鳴らす。


「確かに、ロクマに挑むのは怖いです。ミツメさんに諭されたとき、安心している自分もいました。元の自分に戻れる。傷つかない自分に戻れると……」


 自分で話をつづけながら、イヌマキは思う。自分がここまで自己主張したことなどなかったと。否定されるのが怖くて、いつもうすぼんやりと黙っていた。そんな自分との決別を、彼女は成し遂げようとしていた。


「でもそれじゃあ、弱いままの自分です。弱き者が持つ後悔は、霊となる。ここにいても弱いままだった私が、奥の院に入ってて唯一学んだことです。私はもう、後悔しない道を進むことにしたのです」


 手の内を彼らに話すうちに、イヌマキの心には再び無敵精神状態が戻っていた。 


「私は『ホラー映画で絶対死なないタイプ』です。ここで逃げ出してしまうタイプは、確実に死にます!」


 ここまで言い切ると途端にイヌマキは恥ずかしくなった。自分の思うことを、ここまで誰かにぶつけたことのなかったイヌマキは、赤面を隠すためにうつむく。しかしそれは先ほどのような、逃げ腰から来るうつむきでは決してなかった。


「それで、イヌマキ。お前が言いたいことは何だ」


 ここまで聞いて初めて、リーダーであるイチジョウが声を発する。イヌマキが入室してから、彼は一度も声を発することなく、彼女の話を聞いていた。


「私は、奥の院に戻りたいです! どうか再入部を許可してください!」


 言ってしまった。という感覚はもうイヌマキにはなかった。そのかわり、奥の院の彼らを直視することに耐えられなくなった。今自分がどんな顔をしているのか、想像もつかない。きっと酷い顔をしているだろう。それを隠すため、彼女は深々と頭を下げる。沈黙が続く。その時間ごとに、イヌマキは目をギュッと閉じる。頭を下げすぎて、前のめりに倒れそうな感覚になる。溜めに溜めて、イチジョウがようやく声を発する。


「……ヨツツジ、作戦にもっていく米だが、これまで通り五合で構わん」


 その動作に、ヨツツジもこくりと頷く。イヌマキも一瞬、理解することができなかったが、数秒後にその真意を察すると、パッと頭を上げた。



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 そこで見たのは、いつもの光景でした。クールで真面目、だけど仲間思いのイチジョウさん。大きく朗らかに笑うフセミさん。無口だけど芯から優しいヨツツジさん。上品で狂気じみた、最強お姉さまのミツメさん。

 この時私は、未来を見ました。彼らと共にこれからも、共に歩いていく未来を。


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