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帰還?

一月十七日

   午後二時零分 談話室二


「では、本作戦の概要を説明していく。と、その前に……」


 事故物件完全攻略サークル『奥の院』のリーダーであるイチジョウが、仰々しい態度で言った。


「ミツメ、上手くいったのか」


 イチジョウは冷静に、ミツメに尋ねる。自分たちが下した決断であるのに、聞かずにはいられないリーダーの優しさを察したミツメは、穏やかに話す。


「ええ。納得してくれたかは分からないけれど、なんとかね」


「そうか……」と少しうつむき気味で答えるイチジョウ。


「これからは何とも、寂しくなるなあ。ヨツツジ」


 フセミにそう言われたヨツツジも、いつも以上に部屋の隅で腕を組み、うつむいている。


「というか皆は、あの最後で良かったの? イヌマキちゃんに、会いたかったんじゃない?」


 「そりゃそうだ」と言いかけたイチジョウは慌てて口をつぐみ、至極冷静に答える。


「……全員で行けば大げさになるだろう。イヌマキも去りにくい雰囲気になる。一番親しいお前と二人きりの方が、本心になれるだろう」


 ミツメ以外の三人に、後悔がないわけではない。奥の院を存続させ、イヌマキと共に歩む道が無いかも何度も考えた。しかし奥の院を、一人の男のプライドのためだけに潰させるのは、だれ一人許さなかった。どれほどの代償が待ち構えているか分からない状況でも、彼らが抱える反撃の手を止めることはできなかった。


「彼女の卒業を、長い目で待とうではないか。我らにできるのは、そんな穏やかな精神で待つことだ。そう思えば、寂しさも幾分かマシになるであろう」


 この数日で、奥の院は活動拠点であった第二演習室とイヌマキを失った。ここまで来たなら、必ずロクマを討たねばならない。少なくともこの部屋にいる四人はそう思っていた。


「気を取り直して、作戦について話し合おう。少し考えたんだが……」


 そこまで話したところで、イチジョウは一呼吸置く。そして周囲に耳を澄ませるように、首を傾ける。


「誰だ……」


 公民館の一階から二階へと続く階段を、誰かが上ってきている。


「こんなところ、誰も使わぬはずだが……」


「まさか、諮問委員の奴ら? この場所もばれたのかしら……」


 口々に皆が言う間も、足音は確実に近づいてきている。四人は次第に息を殺すように無言になり、来るべき襲撃に身構えている。


 やがてその足音は、談話室二の前で止まる。次の瞬間、扉が勢いよく開かれる。


「おはようございます」



 そんな声が談話室二に響いた直後、イチジョウ、フセミ、ヨツツジは、一斉にミツメの方を非難がましい目で見た。「どういうことだ、話が付いたんじゃないのか」とでも言いたげな目で。


 しかしそんな中で最も、信じられないと蒼白した顔を見せたのはミツメであった。


「イヌ、マキちゃん……?」


 幽霊でも見るような目で、奥の院一同はイヌマキを見つめる。実際彼らからすると、幽霊よりも数倍は衝撃的だったに違いない。


「ごめんなさい。遅刻してしまいました」


 奥の院に入部してから、初めてしてしまった遅刻を、深く反省しているようで、イヌマキは頭を下げる。しかし、遅刻を反省しているという点以外では、いつものイヌマキと全く変わらなかった。そのことが余計に、他メンバーを困惑させた。


そんな中、一番最初に近づいてきたのはミツメだった。彼女はイヌマキの頬を両手で強くつかむ。小さな子供に説教するときの様に。


「あなた、ふざけてるの?」


 恐らく、奥の院に入部してから、一番怖かった事は何かとイヌマキに尋ねると、即答で「ミツメさんに顔を掴まれたとき」と答えるであろう程の形相と声で、ミツメは言った。


「私と話したことを忘れたの? あなたは少なからず迷いを見せた。だから今後関わらないと、私は言ったはずよ!」


 どんな反応をされるか少し怖かったものの、ここまで恐ろしいことになるとは予想もしていなかったイヌマキは、先日の大家に見せた無敵精神状態をとっくに失っていた。


「す、すみませ……」


 自分でもなぜ謝罪しているのか分からなかったが、イヌマキはそう言うしかなかった。それほどまでにミツメの剣幕はすさまじかった。イチジョウ、ヨツツジ、フセミも、イヌマキが帰ってきたことに思うところがあったはずだが、誰も言葉を発しなかった。発せない状況だった。


「気持ちが揺らぐのは分かる。でもこれっきりにして頂戴……」


 ミツメはイヌマキの行動を、一時の迷いから来るものだと判断したのか、顔を掴んでいた両手を放す。


「帰りなさい……。馬鹿なことをやってないで」


 放心に近い状態の思考で、イヌマキは考えた。確かに、一時の感覚かもしれない。昨日に一人で霊を撃退できたことの高揚で、脳が麻痺していたのかもしれない。数十年後に、激しく後悔する決断かもしれない。深く考えた上での決断だとはとても言えない。そうなると、この人たちにはとても失礼なことをした。中途半端で、臆病者で、すぐに調子に乗る小心者と思われてしまったかもしれない。結局何もできない、役に立たない駄目な後輩なのだった。


「次来たら、もっと本気で追い出すからね」


 しかし、それでも、それでも……。



「それでも!!」



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