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セルフフェーズ2

一度そう考えると、全て辻褄が合うことに○○は気が付く。物音、物理的干渉、意思の伝播。あらゆる事象が、これまでの作戦のフェーズ2で経験したことである。当たり前すぎて、彼女はそれに気づけなかった。


 その後○○はハッとする。今まで自分が、フェーズ2通りの対応を行っていたということ。音を無視し、手形をふき取り、「ころす」という敵の意思を物理的に払拭してしまっていた。

「となると……」


 ○○がそう一人で呟いた時、玄関のドアがガチャリと開く音が聞こえた。そのあと廊下から、こちらの自室に向かって、ひたひたと足音が続く。


「来た……!」


 なぜ自分の家で霊現象が起こっているのか、しかもこちらを明らかに敵視しているタイプの厄介な霊。しかし深く考えるよりも先に、○○はキッチンから料理酒を取り出していた。


「これでも良いよね」


 そう呟き、彼女は自室のドアの前に立つ。足音はもう、ドアのすぐ向こうまで来ていた。「迎撃姿勢」とイヌマキは心の中で言う。それを言うことで、奥の院のあの雰囲気を思い出し、気持ちが数段落ち着く。


 ついにドアが開かれた。現れたのは、スーツ姿の男。まだ若く、○○と同じ大学生のようだ。就活生だろうか。


「あれ、この人どこかで」


 ○○は記憶をたどり、この人物の既視感の正体を探ろうとしたが、今はそんな場合ではないと、持っていた料理酒を蓋ごと開けて、思い切り霊にかける。いつもの定石どおり、こんな対応をされると思っていなかった霊が怯む。その隙を、○○は見逃さなかった。


「こんな時間に来ないで!」


「なんで私のところなの?」


「迷惑すぎる!」


「帰って! もうどっかいってよ!」


「と言うかまず、人の家に勝手に入ってこないでよ!」


 自分でも、ここまで言うことがあることに驚いた。ほぼ無意識に、罵詈雑言(正論ではあるのだが)が生み出せる。一年前の彼女、というか一般人であれば即答してもおかしくない状況を、麦茶を飲むように平然と受け入れられていることに、○○は気が付く。


「あ、いない」


 いつの間にか、スーツの男は消えていた。急に静かになった自室で○○は我に返り、ベッドに腰かけた。


「疲れた。っていうか……」


 そこで、今まで感じていた微かな違和感の正体が言葉になる。


「全然、怖くなかったな」


 いくら気持ちが不安定であっても、突然の霊現象は怖いものじゃないのか。ましてや自分の家にまで干渉してくる個体。怖くないはずがない。しかし彼女は、現象に対する対応や撃退までを、完璧ににやってのけた。そうなると、たどり着く結論は、もはや一つしかあるまい。


「もしかして私、めちゃくちゃ強くなってる……?」


 不思議と体が温かかった。寒波が東京を襲っているにもかかわらず、○○は体の芯に心地良いぬくもりを感じていた。奥の院の作戦で、全てが無事終わった時に感じる、充足感。


「でも、今日はもう寝てしまおう」


 ○○は炊飯器の米が朝七時に炊き上がるように予約設定してから、再びベッドに入った。



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