達磨教授、再び
「次の授業は……。げ、達磨教授だったわ」
「達磨教授……?」
「次の授業の教授のあだ名だよ。太ってるし、話し方が古風だろう?」
「ああ、なるほど……」
月曜日三限の授業「神話論」の教授がそんな言われ方をしていることを、私は初めて知りました。
「その先生、なんかまずいことあったっけ」
私が二人にそう尋ねると、二人はぎょっとしたような表情をしました。私のことを、恐れているような……、そんな感じ。
「いやいや、まずいことだらけだよ! ずっとわけわかんなんこと話してるし、急に熱くなったと思ったら、意味不明な質問してくるし!」
「特にミズノは、なぜか標的にされてるよな」
「そう! だから嫌なんだよねえ。あの授業」
そう言ってミズノさんは肩を落とします。私は彼女を勇気づけるために努めて元気に言いました。
「でも、内容は面白いから。困ったら板書を見せてあげる」
そう言うと二人は、先ほどよりもぎょっとした表情で私を見ました。完全に恐れている時の顔のこわばらせ方です。
「○○ちゃん、あの授業の内容が面白いの?」
「面白いと思うけど……」
「それで、あの授業の板書も取ってるの……?」
「取ってるけど……」
「……世界は広いな」
アキモト君は、隣でそんなことを言います。別に、大したことじゃないと私は思うのですが、異星人を見るような目をされていたので、これ以上の反論は慎むこととしました。
「君たち、遅刻であるぞ!」
ミズノさんの昼食の影響で五分ほど遅れて教室に入った私たちは、さっそく授業を始めていた達磨教授ことデシマル教授に咎められてしまいました。
「ごめんなさい。お昼ご飯の量が多くって」
ミズノさんは、遅れた理由を正直に話します。
「なんで正直に言うんだよ」
と小声でアキモト君に小突かれるミズノさん。正直すぎて、怒られるのではないかと目つぶった私でしたが。次に聞こえてきたのは、教授の豪快な笑い声でした。
「うむ、それは仕方ない。急いで食べる食事ほど、楽しくないことはないからな!」
難を逃れられて安心した私たちがそそくさと後方の席へと行こうとすると、デシマル教授は再び私たちを引き留めます。
「食べるのが遅いなら、通りにあるおむすび堂に行くと良い。あそこはどの定食も美味いし、食べきれなければ弁当にして持ち替えられる!」
席に座り、講義を聞く準備を整えた後も、まだ教授はおむすび堂の話を止めませんでした。しきりに「あそこの店主は無口だが良い奴である」と豪語します。店主さん、愛されているなあと思いました。
「とにかく、他の諸君らも、私の講義よりも昼食優先してくれたまえよ! 腹が減っては何とやら、私の講義はそれ以上に高カロリーだからな。はっはっは」
「良い人っていうのは認めるよ」
教授の様子を見ながら、ミズノさんは私にそんなことを言いました。
「太陽を信仰した巨人の王がいてだな……。彼の友であった唯一の人間、これがまた素晴らしい! と、これは先週話したな。覚えているかね。先ほど遅刻した君。昼食に苦しんだと言っていたそこの……」
ミズノさんは先生に聞こえないように「ほら来た」と言いました。板書を取っていたので答えることができていましたが、変に目立つミズノさんも悪いのでは、と思い始めてきました。
「はあ疲れた……。来週もあんなこと続くの?」
デシマル教授の神話論を終えた私たちが、帰路に着こうと最寄り駅に向かいます。「俺は四限目も授業だから」と言ってアキモト君とはまた明日とお別れしました。
「ま、まあ、また板書を見せてあげるから……」
「でもなんで、あの教授は私ばっかり当てるのかなあ」
ミズノさんはそんなことをぼやきます。確かにそれは謎で、最初以降は特に目立つことをしていないのにも関わらず、教授は彼女を指名していました。
「けど、意地悪しようとしてるわけじゃないと思うなあ。悪意は感じられないし……」
「そうなのよ。でも余計に訳が分かんないよ。それじゃあ」
「ミズノさんにシンパシーを感じるのかも」
「どこが!」
彼女はそう怒っていますが、彼らの周りを流れる捉えようもない陽気な空気感と言うものには、何か通ずるものがあるように思えてなりませんでした。




