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お米大好き

「でも、ちょっと変なの。その定食屋さんの店主」


「……変?」


 きょとんとする私に、後ろを歩いていたアキモト君が言います。


「とにかく無口だからな。ただ、悪い奴じゃない」


「へえ……」


 どんな人なんだろう……。そんな思いで私たちは件の定食屋さんにたどり着きました。お店の名前は『おむすび堂』。見たところ、街にあるごく普通の定食屋さんという感じで、変わったところは見られません。他のお店よりも、学生の数が少なく、落ち着いているという印象を受けました。


「なんかここ、落ち着くんだよねえ」


「美味いのに、空いてるからな」


 二人は席に着くと、メニュー表も見ずに店主の方を呼びました。私たちの前に現れたのは、想像していたより若い、男性の店主でした。確かに一言も声を発さず、ただこちらをじっと見ているだけです。一瞬、私と目が合ったのですが、何も言われませんでした。


「いつもの日替わり三つね!」


 元気よくミズノさんはその店主の方に言います。こんな無口な人なのに、そんなテンションで行って大丈夫なのかな……。と心配になりましたが、その店主さんはこくりと頷いて、厨房に向かっていきました。


「ほんとに、無口なんだ……」


 あっけにとられて私は言いました。


「そうでしょう。最初は怖いよね」


 確かに無口なことにはびっくりしましたが、ミズノさんが言うように怖いという印象は受けませんでした。言葉を発さずともわかる穏やかさ、優しさ……。それは、奈良公園の鹿に初めて出会った感覚と近いかもしれません。彼らは基本的に言葉を話しませんが、どっしりと構えて穏やかに歩いていたり一休みしている様子は、言葉無き安心感を感じられるのです。『おむすび堂』の店主さん、引いてはこのお店全体に、そういう雰囲気が流れている気がします。


「お、きたきた」


 ミズノさんがそう言ったので後ろを振り返ると、店主さんが三人分の定食を持ってきてくれました。


「わあ」


 初めてそれを見た私は、思わず声を漏らしました。焼き魚にお味噌汁、玉子焼きとほかほかのお米……。どれも特別なものではないのですが、なぜこんなにも美味しそうなのでしょう。


「ありきたりなのに、美味しそうだよねえ」


 ミズノさんも、同じことを思っていたようです。


「凡事徹底の賜物だな」


 アキモト君もそんな素敵な感想を言っています。いただきますを全員で言った後、私はお味噌汁を口に運びました。


 ……それから後のことは、もう細やかに語る必要もないでしょう。とにかく頭中に「美味しい」を充満させながら、私たちは無我夢中で食べ続けました。きっとお客さん全員がそう思いながら幸せに食べているからこそ、お店全体に幸せオーラが漂っているのでしょう。店主さんの無口が気にならない理由も、きっとそこにあると思いました。


 お料理に舌鼓を打っていると、再び無口な店主さんがこちらのテーブルに近づいてきました。なんだろうと思っていると彼は、私の目の前にお皿に乗った二つのおむすびを置きました。あっけにとられて私は言います。


「あっ、あの、頼んでないのですが」


 私がそう言うと、店主さんは私に向かって親指をぐっと立て、何も言わずにまた厨房へ戻っていきました。ぽかんとする私の肩をミズノさんがポンと叩きます。


「サービスだよ。良かったね○○ちゃん」


「サービス……?」


「ここの店主は、初めて来た客におむすびを提供するんだ。遠慮なく貰っておけ」


 アキモト君は目の前に置かれた二つのおむすびを指差しながらそう説明します。いきなり提供されたことに混乱して、今まで気が付いていなかったのですが。そのおむすびの何と美味しそうなこと……。すでに満腹気味だったお腹が、再び食欲を取り戻します。


 ……そのおむすびについても、多くを語らないこととします。最後の晩餐はきっとこのおむすびにする。感想はそれだけで十分でしょう。


「そろそろ授業始まるぞ」


 私がおむすびを食べ終わり、口内の幸福感に包まれていると、アキモト君がそう言いました。


「んぐ」


 私が追加のおむすびまで食べ終わったというのに、ミズノさんはまだ定食の半分も食べ終わっていません。本人は急いで食べていた様子ですが、そもそものスピードが遅すぎるのです。


「おい、間に合わんぞ」

 アキモト君は、呆れたように言いました。この感じだと、ミズノさんは常習のようです。


「だって美味しいんだもん。ちゃんと味わわなきゃ」


「限度があるだろう」


「あはは……」


 その後、食べるのを手伝おうかという私とアキモト君の提案を断固拒否しながらも、結局食べきれず、店主さんが残ったご飯たちをお弁当にしてくれていました。本当に紳士な方です。余計に無口である理由が分かりません。


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