○○ちゃん
「○○ちゃん。今日はあそこ行こうよ。この前言ってた定食屋さん!」
二限の授業終わり、声をかけてきたのは、隣の席で共に講義を受けていたミズノさんでした。
「うん、いいね。行こう」
私も彼女に同意して席を立ちます。
「それにしても、寒いよねえ。最近」
「ね。マフラーなしじゃ外歩けないよ」
「ほんと! 確かに○○ちゃん、マフラーのイメージ強いなあ」
「あはは、そうかなあ」
○○ちゃんと言われるたびに、私は胸に微かな違和感を感じます。そういえば私って、そんな名前だったな、と。
ミズノさんとは、一年生の後期授業の終り頃、一月の半ばで初めて隣の席で話して、仲良くなりました。入学してから今まで、学部内でちゃんと話せる子がいなかった私は、新しい友達ができたことに胸を躍らせました。ミズノさんは大学生らしい、上品な女の子なのですが、時々お茶目でとてもかわいらしい人です。一年生の間、ずっと孤立していた私を、可哀そうだと思ってくれたから、話しかけたと後に聞きました。
「○○、今日はもう帰るのか」
不意に、後ろから男性の声が聞こえてきました。
「あ、アキモト君」
声をかけてくれたのは、アキモト君でした。元々ミズノさんのお友達だったようで、私と彼女が仲良くなる頃に知り合い、こうして時々声をかけてくれるのです。
「ううん。三限があるから、ミズノさんとお昼食べに行こうと思って」
「そうか、○○も同じ授業を取ってたな」
アキモト君は、基本的には素っ気ない男の子なのですが、こうして私を気にかけてくれるのです。真面目な性格なので、授業で分からなかったところを教えてくれたり、ノートを見せてくれたりします。
「アキモト、あなたも一緒に来る? ほら、いつもの定食屋さん」
ミズノさんは、アキモト君にそんなことを言います。そう言われたアキモト君は、やれやれと言ったように、でもちょっと嬉しそうに言いました。
「まあ、来てほしいなら、別に行ってもいいが……」
「そんなこと言って、一緒に行きたいから○○ちゃんに声かけたんでしょ」
「……」
二人の会話はいつもこんな感じです。いつから知り合ったのか、私は知らないのですが、素敵な関係だなあと、いつも見ていて思います。
「○○ちゃん、その定食屋さんは初めてだよね」
学生でごった返す月曜日のお昼の学生通りを、三人で歩きます。
「うん、ミズノさんたちを仲良くなるまで、お弁当だったから」
「ほんと、偉いよねえ」
友達がいないのに、外食しても寂しいだけだからと、私は家でお弁当を作って、空いた教室で食べていました。だから、昼間の学生通りがこんな賑やかになることも、最近初めて知ったのです。




