談話室二
「久しぶりね、ここも」
一同がたどり着いたのは、大学から少しだけ北へ進んだところに位置する小規模な運動公園。四年生たち曰く、彼らが参加した初作戦のロケーションが、この公園内にある公民館だったとのこと。作戦を成功させたことを喜んだ公民館の管理人が、『今後は好きに使ってくれて良い』とのことで、公民館二階、談話室四が、奥の院の所有する部屋となった。
イチジョウが持っていた鍵を開け、談話室四の中に全員で入る。古い木製の室内ではあるが、丁寧に手入れされている。部屋の中央には、仕立てのいい白のテーブルと、隅に積まれている折りたたみ椅子が十脚ほど。清潔感もあって落ち着く場所だった。南側に設置された、綺麗に吹き上げられた窓からは、先ほどまで一同がいた大学が臨める。
「俺たちが一年生だった頃だな。ここで戦ったのは」
イチジョウが言うに、この談話室四が公民館の霊障の源であり、フェーズ2の最終戦はここで行われたとのこと。
「実体が出てきたとき、ミツメ君が失神したのを、今も昨日のことのように思い出せるなあ」
「それで、ナルユメさんが日本酒を頭から被せて起こしたんだったな」
「……そんなこと、思い出させないでよ」
「あはは……」
そんな会話をしながらも、彼らは窓の外に見える大学を眺める。きっと、考えていることは皆同じであろう。
「どうしたものか……」
しばらく静かだった後、フセミがため息交じりに言った。
「嫌な人たちだったわ」
ミツメも呟くように言った。「別に、誰にも迷惑をかけてるわけじゃないのに」
「だが、他の学生が気味悪がるというのも事実だ。……本局の意思もあるならなおさらだ」
イチジョウは、冷静に考えた末に、そんなことを言った。
「じゃあ、大人しく廃部になるの?」
「別に、学外で活動すればいいだろう。拠点はこの談話室で良い」
確かに、この場所なら悪くない、とイヌマキは思った。先輩たちの初陣の場所であり、霊が浄化された心地の良い談話室。
「でも、大学公認が外されるのよ。依頼をしてくれる人が、きっといなくなるわ」
「それに、SNSも削除させられるだろう。そうなると、これまでの実績が全て闇の中だ……」
ミツメとフセミが言うように、奥の院のSNSでは、浄化した物件を、依頼者のコメントと写真と共に掲載していた。その実績が増えてくるにつれ、信頼も高まってきていた。それがゼロになってしまうとなると、それこそ大学生の悪ふざけとみなされてしまうようになるだろう。
「……ゼロからやっていけばいい。それなら、俺たちが大学を卒業した後でも、活動できる」
「でもそれじゃあ、奴らの言われるがままにするってこと?」
諮問委員会の三人に、何も言い返せないまま言う通りにすることを、ミツメは納得していない様子だった。
「俺たちの目的を見失うな。相手にするのは実在の人間ではなく、霊だ」
たしなめるようにイチジョウが言う。「それはそうだけど」と彼女も勢いを失ったようだった。
「確かに、癪な言い方をする輩たちではあったなあ」
「というか、諮問委員会の委員長って、あんな人だっけ?」
ミツメの疑問に、イチジョウが自身の記憶をたどるそぶりを見せて発言する。
「定例総会で何度か委員長とは顔を合わせていたが、あいつではなかった。委員長の任期が終わって、ロクマとかい男になったんじゃないか」
「前委員長と最後にあったのはいつですか?」
「たしか、去年の十二月のはじめくらいだったな」
「そんな時期に、役職の交代って有り得るの?」
「さあな。ただ、役職の交代自体は、珍しいことじゃない。体調の問題とか、家庭の事情とかな。所詮大学生が運営する機関だ。中途半端なものだ」
「なんか、奥の院に個人的な恨みがあって、それで不正ルートで委員長になって、権限を持って直々に……、何てことはないかしら」
ミツメの疑い様に、イチジョウは少しだけ考えたそぶりを見せたが、「それは無いだろう」と首を振った。
「さっきも言ったが、他学生たちが怖がっているというのは、お前も身をもって体感してるはずだ。あとロクマとかいう男だがな、あれは正式に選ばれた委員長だと、俺は思う。威圧的で説得力ある話し方も、慕って来る人間も、ルックスから来る人気も、ある種のカリスマ性がないと付いてこない。俺はあの男から、そういうものを感じた」
「私もそのように感じたぞ。ミツメ君、強き者は、正しさだけではないのだ。自身の障害となるものを躊躇なく排斥する……。そういう感性が必要だ。その点では、我々と似ているかもしれないな」
「そう……」
ミツメは、何とかして委員長ロクマの粗を探したい様子だったが、叩ける隙は見つからなかった。
「じゃあ、廃部にされて、学外で活動する。そういうことで決定?」
「それが、最も穏便な解決方法だ。これからも俺たちが活動できる唯一のな」
イチジョウがきっぱりとそう言った。ミツメも頷きながらも、何とか納得がいったように言った。
「あの人たちのことは分かったわ。彼らの言いたいことも」
「でも」と言って彼女は拳を固く握りしめた。




