さらば第二演習室
「いくらあんたたちが騒ごうと、決定事項ですからねえ。四年生の皆さんも、せっかく集めてきた単位を無駄にしたくないでしょう? 一年生の君も、これからの大学生活楽しみたいでしょう?」
「あなた方が言いたいことは分かった。しかし、話があまりにも急すぎるとは思いませんか。大学本局がそう言っているのであれば、その証拠を」
イチジョウは、相手を刺激しすぎず、しかし調子に乗せすぎないよう、納得できないという意思を示した。
「そうですか。では、この方を」
そう言ってロクマは、外野の女学生たちの後ろで控えていたであろう人物を演習室へ連れてきた。その壮年の男は、肩から大学職員のIDカードをぶら下げており、疑いようのない本局の人間だと分かった。
「総学生部の職員であるキモトさんです」
ロクマがそう紹介するとその男は、軽く会釈し、持っていたファイルから一枚の用紙を取り出し、イチジョウに手渡す。奥の院一同はそろってその紙を凝視し、それが『廃部願』であることを知る。ぼそぼそと事務的に、キモトという男が話し出す。
「えー、奥の院の廃部願は、総学生部が正式に決定し、発行されたものです。分かりますか。ほら、ここに学長の印鑑も……」
あくまで事務的に、つらつらと現実を突き付けてくるキモトに苛立ってきたのか、「もう、わかりました」と話を切るイチジョウ。ああそうですかと何の感情もなしに後ろへ退くキモト。
「これで、分かっていただけましたかねえ。疑いようがないですから。これ以上納得できないと騒ぐなら、本当に学生生活が危うくなってきますよ。まあ、十分今のままでも危ういのですが……。ねえ、キモトさん?」
「ええ。まあ、そうですね」
諮問委員会の攻勢に乗じて、スガイはつらつらと嫌味を投げかけてくる。職員のキモトも、学生同士の諍いに一切の関心がなく、権力がある方にとりあえず肩入れしているという印象だった。それに耐えかねたイヌマキが、何とか反論しようと、
「しかし……! そんな急に!」
と言おうとしたところをイチジョウに手で制止された。彼を見ると、今にも飛び掛かりそうな勢いでロクマを睨みつけるミツメのことも、片手で制御している。
「大体、分かってくれたかい? クレームとまではいかなくても、君たちの存在を気味悪がっている学生がいるのも事実だ。快適な学びの場を維持するための犠牲だと思って、大人しくしたがってくれたまえ」
いつの間にか、敬語を使わなくなったロクマがそんなことを言う。
「ま、今月中の活動については目をつむろう。せいぜい、最後まで勤しめばいい。君らのその『除霊擬き』を」
そう言って、諮問委員会の三人は第二演習室を後にした。演習室の外では、ロクマに魅了された女学生たちの「今日も恰好良かったです」とか「相手に手も足も出させませんでしたね」とか色々と聞こえてくる。女らの声が遠のいてきた頃、不意にスガイがすたすたと教室に戻ってきて、
「あ、ちなみにこの教室の貸し出しも、もう許可されませんから、早急にご退出をお願いしますよ」
と言って再び部屋を出ていった。
静まり返る第二演習室。黙っていても仕方がないと思いつつも、全員、声を発せないでいる。そんな中で、リーダーを務めるイチジョウが先陣を切った。
「まあ、とりあえず場所を変えるか」




