敵性
彼のその言葉から、恐らく数十秒間、誰も一言も言葉を発しなかった。諮問委員会の三人は、奥の院側の反応を求めているように無言だった。
「理由を聞いても?」
黙っていては話が進まないだろうと判断したイチジョウが彼らに尋ねる。するとロクマは、スガイと紹介された細目の男に目配せをした。するとスガイが教壇に立つ。
「現在、我々の大学はざっくり百以上の部活、サークルが存在してるんです。これ以上、サークルなんかを新しく設立すると、我々や学生部が管理しきれないんですよねえ。でも、学生の設立の意欲は尊重したい……。てなわけで、現存しているサークルで、生産性がないもの、著しい成果を上げていないもの、学内での評判が悪いものを解体しようという結論になりました。その結果初めに上げられたサークルが、あんたたち奥の院だった。ってわけです」
スガイは男の割に、鼻につく高い声で、鼻につくことをつらつらと語った。
「失礼ね。生産性も、成果も持ってるわよ」
「変なサークルであることは甘んじて受け入れるが……。それ以外は認められんなあ」
ミツメとフセミも苛立ちを隠さずに反論する。スガイはこちらを小馬鹿にしたように鼻で笑って続けた。
「だってねえ。あんた達考えたことありますかい? 他の学生たちが健全に運動や文化活動に勤しむ中、事故物件に赴いて、訳の分からんことを作戦だのなんだの言ってる自分たちの存在について。不気味だと思いますよ。普通は」
イヌマキは、学部内で囁かれている奥の院の噂話を思い出した。この男も、嘘を言っているわけではなさそうだった。
「しかし、我々奥の院に生産性がないというのは見当違いです。実際、不動産業界からは一定の評価を得て、最近は依頼がひっきりなしに続いている」
イチジョウも、相手に納得してもらえるよう、そして諮問委員会の波に乗せられないよう一定の圧を携えて反論する。しかし、委員長のロクマは怯まず、きっぱりとそれを否定する。
「それは、根本的に間違っています。我々が特にあなた方を危険因子としてみなした理由は、公序良俗に違反する可能性があるからです。あなたたちの活動に納得できる、できないの議論は、ここでは意味を成しません」
裁判ドラマの凄腕弁護士のようなそぶりで、イチジョウを指差しながら物申すロクマ。すると演習室の外、廊下側から、大勢の女性たちの嬌声が聞こえた。何事かと思って奥の院一同が扉の外を見ると、本大学の女学生たちが、黄色い声援を上げながら、ロクマに視線を集中させている。「かっこいい」とか「素敵」といった泡ぶくの様にどんどん聞こえてくる。いつの間にか、ロクマの居場所を知った女学生たちが、ここへ集まっていたようだ。
「随分、人気者じゃない? あなた」
挑発するように言ったミツメに対し、フンと勝ち誇ったように笑うロクマ。
「別に、僕も狙っているわけじゃない。ただやるべき仕事を淡々とこなしていたら、ファンの子たちが増えてしまって」
確かに、とイヌマキは思う。整った顔立ち、他者を圧倒する話術、諮問委員会長という高い地位……。
異性の憧れをくすぶるには、申し分ない要素を備えていると感じる。
「……分が悪いな」
ロクマが奥の院に対して敵意を示した先ほどの発言によって。外にいた女学生たちも、奥の院一同に敵意のある視線を向けてきている。
「好きな人の敵は、敵だものねえ」
ミツメは外の女学生たちを、心底軽蔑しているような視線と声で言った。そんな中、委員会の三人の中でずっと黙っていた派手な女口を開く。
「諮問委員に逆らわないほうが良いよ。大学本局である学生部と繋がっているんだから。下手したらあなたたち、大学を追い出されるよ」
ノノミヤは、自身のネイルをいじりながらこんなことを言った。こちらに心底興味のなさそうな口調ではあったが、他二人の様に敵意は感じられなかった。




