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宵山作戦

七月十六日

   午前十一時三十分

        京都駅構内


「良いんか、ミツメ。何も気を遣う必要なんかなかったのに」


 激闘より一夜明け、奥の院は東京行の新幹線の到着を、ナルユメ、スズリとともに待っていた。


「あんなことがあったんだもの。遊んでいられないわ。それに、駅で八つ橋をたくさん買えたもの! それでもう十分よ」


 本場の八つ橋を買えて舞い上がっているミツメをよそに、イチジョウが話し出す。


「お屋敷のことなど、本当は我々も手伝うべきなのでしょうが、すみません」


「良いって。というか、今回の一番の被害者は、無関係な奥の院のお前らやからな。そんなことまでさせてられるかって話よ。ま、俺はしばらく仕事休んで、色々済ませてから東京帰るわ」


「スズリちゃんの新しい居場所も決まったしね」


 彼の隣では、カクシノがつかみどころのない笑い方をしながら言う。


「なんの! よい経験になったぞ。この力は、これからの除霊生活にきっと役に立とう」


 フセミが話すと、どうも周りからの視線が奇異なものとなる。公共の場でくらい、普通に話してほしいものだと、その場にいた全員が思った。


「また、いつでも京都にいらしてください。お待ちしております」


 スズリも、控えめではあるが、別れを惜しんでいるようだった。


「スズリちゃん。カクシノさんとこで頑張ってね。私絶対にまた来るから!」


「はい。カクシノ様とカガリ様とで歓迎いたします」


 昨日の一時間程度しか関わっていなかったにもかかわらず、ミツメはスズリのことを随分と気に入ったようだった。


「本当、ありがとうな。これからの活動も、応援してるで」


 この一夜で、ナルユメは随分と頼もしくなったように感じられる。


「ありがとうございます。……あと五分で出発か。皆忘れ物はないな」


「みんな、お元気でね」


 カクシノの別れに頭を下げ、奥の院一同は、各々荷物を確認しながら、新幹線乗り場に向かい出す。全員、昨日来たばかりなのに、随分長い間京都にいた様な心地がしていた。


「イヌマキちゃん」


 乗り場へ向かうイヌマキの背後から、ナルユメの声が聞こえた。びくりとして振り返る。


「がんばれよ! ホラー映画で絶対死なないタイプとして、精進してくれや」


 急に話題に出され、更に反応しにくい激励の言葉をもらったイヌマキは、反射的に何か気の利いた事を言わねばと思い、「はい、私は死にません」と意味の分からぬことを言った。


 「なんじゃそりゃ」と、後ろでナルユメたちの笑い声が響いた。イヌマキが不服そうに振り返ると、三人は笑みを浮かべながら、こちらに手を振っていた。飄々としながらも常に優しかったカクシノ。軽口を連発しながらも、人一倍周りのことを考えるナルユメ。お淑やかに見えて、ミツメに似た狂気を忍ばせているスズリ。二人とも昨日、数時間共に過ごしただけなのに、別れがどうしようもなく切なくなった。歩みを進めるほどに小さくなる三人の影。


「どうかお元気で」


 イヌマキの言葉が、三人に届いたかは定かではない。しかし大きく手を振るその姿は、彼らの目にきっと届いたに違いない。



   午後十二時零分

       東海道新幹線 車内



「なんで? どうしてなの!」

 車内にミツメの悲痛な叫び声が響く。「静かにしろ」と怒るイチジョウに目もくれず、ミツメは半泣きになって訴える。


「なんで、普通の八つ橋を買ったはずなのに、袋に入ってるのが全部、『期間限定 激辛唐辛子味』なのよ!」


 おそらく、奥の院だけでなく、車内で彼女の言葉を聞いたすべての人間が、「知らんがな」と思ったに違いない。


「もう仕方ないだろ。諦めて食べたらどうだ」


 イチジョウの正論に、返す言葉の無いミツメは、不服そうに激辛唐辛子八つ橋を口に入れる。数秒して、彼女の瞳が涙に染まる。


「なんでこんなに辛いのよ……」


「激辛と書いてあるからではないか」


「イヌマキちゃんも笑ってないで、食べるの手伝って頂戴よ!」


 そういって半ば無理やり激辛八つ橋を口に入れられたイヌマキの瞳も、涙で濡れる。


「結局、本場の八つ橋食べられなかったわ。一番楽しみにしてたのに……」


 口内の激痛とともに悲しみに暮れるミツメを見ながら、イヌマキは「でも」と言う。


「良かったこと、一つだけあります」


「なあに」


 瞳に溜まった涙を指で拭い、イヌマキは言った。


「これでまた、京都に行く理由ができました」


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