挑発 フェーズ2
第一部『奥の院』は次回で完結です。
午前七時二分
翌朝、全員が目を覚ましたのを確認し、イチジョウが言う。
「今日はフェーズ2だ。昨日の偵察により、霊源は二階東側の部屋であることが推測される。本番はここからだから、用心して取り組むようにな」
二日目は何をするのか考えているところに、また二階からドアの開閉音が聴こえてきた。もう慣れたものだと思っていると、廊下の一番近くに立っていたミツメが、ものすごい勢いで扉をガチャガチャ開閉しだした。一分ほど騒音を鳴らしたところでミツメは動きを止め、耳を澄ませる。二階からの物音は聞こえなくなっていた。彼女はイヌマキの方をむいてにやりと笑う。
「フェーズ2、つまりこういうことよ」
「……どういうことでしょうか」
訳の分からぬイヌマキは怪訝に尋ねる。やはり頭のおかしな集団に入ってしまったのだろうかと。
「ハンムラビ法典を思い浮かべてもらうとよいだろう。『目には目を歯には歯を、霊障には霊障を』とな」
ニノツキも自信ありげに答える。イヌマキの心も、不思議な愉快さ、無敵さが支配しようとしていた。
「反撃の時間よ」
ミツメもこの瞬間を待っていたように言った。
その後、二階から足音が聞こえるたら全員で地団駄を踏み、本棚から本が落ちたらその本棚を思い切りひっくり返した。この行為が霊にどのような心地にさせているのかは定かではないが、内心穏やかではなさそうだ。だんだんと音が激しくなり、そのたびに数倍の騒音が五人から放たれた。
午後二時五十七分
業を煮やした霊が次の手段に出たらしい。リビングに設置された固定電話が鳴った。
「これは私の出番ね」
何の躊躇もなく、ミツメは受話器を取った。
「もしもし、どなたでしょう」
『……ネ」
「はい?」
『……シネ』
受話器に耳を当てていなくてもはっきりと聞こえた女の声に、イヌマキは戦慄したが、ミツメは平然としていた。
「ごめんなさい、よく聞き取れなかったわ」
『シネ……!』
「電波が悪いのかしら。何にもきこえないわ。もしもし?」
「こんな自然な演技、さすがに俺でもできないな」
イチジョウが小声で感心している。
『シネ‼』
「駄目だわ、お手数だけど、もう一度かけ直してくださる?」
ガチャリと、受話器が途切れたようだった。
「かなり怒らせちゃったかも」
「すごいです……! 幽霊相手に、あんなに堂々と反撃できるなんて」
イヌマキは純粋に、ミツメを強い人だと思った。幽霊を心からボコボコにしようと考えていなければ、あんな芸当ができるはずないと思った。
「攻撃媒体に電話を使ってくる奴は多いわ。今のは凄く標準的なやり方よ」
「我々はこのやり方を、『コール・リベンジ』と呼んでいる」
そうイチジョウが教えてくれる。なぜ作戦用語はすべて横文字なのかイヌマキが疑問に思い尋ねると。
「格好良くてテンションが上がるから」という理由らしい。
「テンションが上がって士気が上がったら、より私たちが優勢になるからね。これ、結構大事なのよ」
「なるほど」
割と、納得できる理由であることにイヌマキは安心した。
「うむ。君のおかげで、本体の登場も間近となろう」
ニノツキは言った。
「そろそろ対峙する覚悟はしておけ。ヨツツジ、そろそろ準備を」
ヨツツジは荷物を漁り、何かをごそごそ準備しているが、何をしているかまでは分からない。




