淳涜
午後五時五十八分
「この屋敷の構造は、大方理解できた。あとは迎え撃つのみだ」
イヌマキたちがカクシノとともに捜索を開始した同時刻、イチジョウたち迎撃チームの三人は、従来儀式が行われる場所である「仏間」にて待機していた。その部屋は屋敷の奥にある畳張りの十二畳で、窓も障子もないため、夜ではないのにひんやりと薄暗かった。「儀式のためだとお聞きしております」とスズリが言ったように、部屋の明かりは天井に取り付けられた薄暗い豆電球のみだった。部屋の北側には、立派な作りの祭壇が置かれていた。どこから、どのように悪霊が現れるのか、それはスズリにも分からないらしい。
「うむ、間もなく六時……。気道確保、意識維持、皆どれも問題はないな」
フセミも医療リーダーらしく振舞っている。ヨツツジも黙ってはいるが、手には葦苅、腰には尾張羽をいくつもぶら下げていることから、やる気は万全のようだ。その様子を見てイチジョウは、「改めて確認しておこう」と言った。
「目的は悪霊の撃退ではなく、迎撃だ。蝶舞の錫杖をもってナルユメさんたちが帰ってくるまで持ちこたえる。そして戦闘は、できるだけこの仏間だけで済まそう。別の部屋にいるスズリさんやナルユメさんのお父様に被害が及ばないよう細心の注意を払え。それから、」
イチジョウは、事前の作戦会議にてナルユメとした約束を思い出す。
「命の危険を感じたら迷わず撤退。全員でこの家を出る」
本作戦においての重要事項であるその決まりに、全員が頷く。
「ナルユメ殿たちは、錫杖を見つけられるだろうか」
普段の様子と似合わず、心配な様子をこぼすフセミ。イチジョウもそのことを考えていないわけではなかったが、口には出さないようにしていた。
「どちらにしろ、俺たちにできるのは、目の前に現れる悪霊を迎撃するだけだ。……そろそろ六時だ、気を引き締めていこう」
「うむ、準備万端、万事徹底」
フセミのその声を最後に、仏間は静まり返った。三人の腕時計の針が、午後六時をさしていた。耳が痛くなるほどの静寂が、三人を包んでいる。
〇
「主人様、ただいま六時でございます」
スズリに話しかけられ、床に伏したジュントクは、重い目を開いた。
「そうか……。始まるのか」
「奥の院の方々も、先ほど仏間へ向かわれました」
ジュントクはしばらく、天井の木目を目で追って黙っていたが、何か思いついたように言った。
「どんな者たちだった」
そう聞かれたスズリは、「はい」といってしばらく考え込んだ後に言った。
「愉快な方たちです。私にはあの方たちが、悪霊と戦えるように見えませんでしたが……」
「そうか」とだけ言って、ジュントクは再び黙り込んだ。天井の木目にも飽きたのか、自分の手のひらなどを眺めている。
「主人様、まだよろしいのですか」
スズリの問いに、「ああ」と反応するジュウゾウ。
「まだその時やない。彼らのやり方を、少し見させてもらうとしよう」
「左様でございますか」
それからジュントクは大儀そうに身を起こし、布団の上に座って呟いた。
「奥の院、か……」




