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隠乃

午後五時五十七分


「わあ、さっきまで車行き交う大通りが、歩行者天国の屋台だらけよ」


 ミツメが興奮気味に言う。祇園祭。数日間続くこの祭りで、山鉾巡礼の前日、つまり祭の最終日が宵山というらしく、屋台も人も、最も盛り上がる日であるとナルユメは言う。


「確か、このあたりのはずやねんけど」


 とぶつぶつ呟きながらあたりを見回すナルユメ。歩行者天国の始まり、即ち屋台通りの始まりであるこの虎屋町の交差点が、助っ人との待ち合わせ場所らしい。


「いやあ、待たせてすまない。査定に時間がかかったものだから」


 不意に、イヌマキたちの背後から間延びした声が聞こえてきた。一同が振り返ると、着物をラフに着流した男性がこちらに近づいてきた。若いとも言えないが壮年と呼ぶには早く、イヌマキたちより十五歳ほど年上といったところだろうか。彼の姿を見たナルユメが軽く頭を下げる。


「お久しぶりです。カクシノさん」


「いやあ、デカくなったねえ」


 カクシノと呼ばれる人物は、ナルユメの下げた頭をわしわししてから、イヌマキやミツメの方を見ていった。


「もしかして、この子達が例の『奥の院』?」


「はい。今回の捜索に協力してくれる、ミツメとイヌマキです」


 カクシノは二人を見ながら、意外そうに「おや」と言った。「かわいらしいお方たちだね。常識の範疇を超えた、血も涙もない冷徹たちだって、聞いていたもんだから」


「まあ、前半は正解かも」とミツメが呟く。その間にナルユメが入ってきて、改めて紹介をし直す。


「こちら、前にも言ってた、骨董屋のカクシノさん。骨董屋台とか祇園祭に詳しいから、協力してくれはるんや」


 ナルユメの紹介に「はじめまして」と頭を下げるカクシノ。「普段は辰巳商で骨董品を売ってるんだ。彼のお父さんには贔屓にしてもらっていてね。そのお返しもかねて、今回協力させてもらうことにしたんだ。よろしくね」それに合わせてミツメとイヌマキも挨拶を済ませる。


「京都の骨董屋……。素敵だわ。どこにあるのですか? 作戦が終わったらお邪魔したいわ」


 ミツメがそう訊ねると、カクシノは少し苦い顔をして言った。


「うーんなんていったらいいんだろう……。うちの店、かなり辺鄙な場所にあるからねえ」


「バスでもなんでも乗り継いで、行きますから。教えてくださいよ」


「ま、作戦が終わったら、ちゃんと教えてあげるからさ!」


 うまい感じにはぐらかされた感じがするが、ミツメはそれでいったん納得したようだった。


「それで、どこから探し始めたら良いです?」


 ナルユメは、人でごった返す大通りを入口から眺めながら言った。それに対しカクシノは「ふむ」と顎に手を添えて考えるそぶりを見せた。


「毎年『洛外秘倉』骨董屋台の出現位置はバラバラ。しかも出てきた場所にはもう現れないという法則がある。しかもそこはこの祭り区画の路地裏の更に奥、つまりめったに人が通らない場所に構えられるらしい。だから、こんな大通りにはまず考えられないだろうねえ」


 祇園祭、その屋台が展開される場所は、京都市の中心地であり、大通りを挟んで、碁盤の目状になった路地が入り組んでいる。その路地の一つ一つに夜店が開かれているため、探すのは容易ではないと、カクシノは語った。


「しらみつぶしに調べていくのは確実だろうけど、それだと時間が足りない。それに君のお家で悪霊と対峙している奥の院のお仲間さんたちも、そんなに長いことは持たないだろうしね」


「じゃあ、どうやって探すんですか。めちゃくちゃ難しいじゃないですか」


 ナルユメが困惑してそう聞くのも無理はなく、気まぐれに出現する骨董屋台を広い雑居ビルの細い路地の中から探し当てるのは不可能のように思われた。それでも、カクシノは臆していないようだった。


「そのために僕を呼んでくれたんだろう?」


 そう言ってカクシノは歩き出した。


「しらみつぶしに探すのは難しいって、さっき言ったよね。それは、宵山というのはあまりにも客が多いからってこと。どこもかしこも人ごみで、移動するだけで一苦労。だったら、人がいないところから探せばいいのさ」


 カクシノの言葉の意味を、三人はあまりよく理解できていなかったが、彼は構わず歩き出す。


「ついておいで。京都において、老舗骨董屋がどれほどの力を持っているか、発揮する時が来たようだね」

 


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