洛中へ
七月十五日
午前十一時四十分
東海道新幹線、車内。
「それでは、新幹線の中なんだが、時間も無いため、ここで作戦の最終確認を行う。質問があれば、適宜聞いてもらって構わない。それとミツメ、悪いが八つ橋は一旦しまっててくれ」
本作戦のリーダーであり、事故物件完全攻略サークル長であるイチジョウが話し始める。「んぐ」と、おいしそうに八つ橋を頬張っていたミツメは、いきなりそのことを言及されて驚いたのか、恐らく餅の部分がのどに詰まりそうになっている。
「別にいいじゃない。食べながらでも聞けるわよ」
何とかのどに詰まった餅を水で流し込んだミツメが反論する。
「目の前で八つ橋をがつがつ食われると調子が狂う」
その会話を聞いていたニノツキが笑い出す。
「まあ、良いではないか美味しいなら! しかし、現地に着く前にそこの名物を食べるとは、君もなかなか変わっているな」
彼の横で大人しく座っていたイヌマキも、大方同意であった。
「きっと、本場の方がもっとおいしいんじゃないでしょうか」
そんな彼らの反応に対して、ミツメは不服そうに言った。
「だって東京駅に売ってたんだもの。そんなの買うしかないじゃない。ずっと楽しみにしてたんだから」
「別に、俺たちは旅行に来たわけじゃないぞ」
「分かってるってば」
「まあ、なんでもいいが、どこか行くなら作戦が終わってからな」
新幹線が米原駅を通過したというアナウンスが聞こえてきた。ニノツキ曰く、次が京都駅らしい。ナルユメは調べたいことがあると、京都に前乗りしていたため、奥の院通常メンバーでの作戦会議であった。
「それで、今回は先週決定した通り、チームを二つに分断するとのことだったが、采配が決まったから、今ここで発表する」
先週、七月七日にて行った作戦会議では、二手に分かれることまではいったものの、肝心のチーム分けが未だ決定されていなかった。ナルユメは、現リーダーであるイチジョウにすべての采配を任せたが、その場では決めかねたので、作戦当日に発表することになっていた。
「『捜索チーム』はミツメとイヌマキ、ナルユメさんに決定した。『迎撃チーム』は俺とニノツキ、そしてヨツツジだ」
大方、予想通りの采配であったが、聞いていた一同がおそらく全員疑問に思ったことをミツメが口にする。
「あら、ナルユメさんは撃退チームじゃないのね。家の構造を知ってた方が有利なんじゃない?」
「最初はそのつもりだった。しかし二日前に連絡があってな、なんでも捜索チームに入れてほしいとのことだ」
新幹線がトンネルに入り、向かい合って座った五人が窓に反射する。会議内容は真面目であるはずなのに、その様子は酷く呑気に見えた。
「理由はあるのよね」
「この作戦のことを、ナルユメさんは彼の父に話したそうだ。するとしきりに『お前は宵山で錫杖を探せ』と言われたそうだ。最初は食い下がっていたが、どうにも譲らないらしい」
新幹線が減速をはじめ、間もなく京都駅に到着というアナウンスが鳴った。各々、降りる支度を始める。そんな中、ニノツキが話し出す。
「蝶舞の錫杖の所有者が言うのだ。何か理由があるに違いない。しかし、私は迎撃チームかあ。祇園祭なるもの、一度足を運んでみたかったものだが」
「他にも素敵なところがたくさんあるわ。終わったら色々と見て回れば良いのよ」
作戦とは言いつつも、祇園祭に行けることを、ミツメは心底楽しみにしている様だった。
午後三時五分 京都駅構内
「そうかあ。ミツメとイヌマキちゃんがこっちにつくかあ」
京都駅に到着し、改札をでたイヌマキたちが構内の天井の高さに驚きながら歩いているところに現れたのが、先日より京都に前乗りしていたナルユメだった。チーム分けの采配をイチジョウが発表すると、彼はそんなことを言った。イチジョウがその理由を説明する。
「あまり男が大勢いると、色々と怪しまれてしまいそうですから。それに、骨董屋台との取引が予想されます。交渉上手なミツメとイヌマキが妥当でしょう」
確かに、イチジョウはともかく、恰幅の良い大男と、全く無口な男が祭りの中を歩いていたら、さぞかし異様な光景だろうなとイヌマキは思った。妖怪と間違われる可能性もある。
「そうやなあ。ミツメ頼んだで。屋台のおっさんは頑固で怖いからな。お前のその愛嬌が試される時や」
そんなナルユメの言葉に、ミツメは「任せて頂戴」と鼻高々に言った。「いつも意思疎通できない奴らと戦ってるんだもの。言葉が通じるだけ、屋台のおっさんのほうがマシよ。全然」
「頼もしいな。イヌマキちゃんも頼んだで」
「はい!」
「それで、迎撃チームのお前らぁにも一つ、言うておくことがある」
「何でしょう」と言うイチジョウ。
「俺の屋敷に、一人の使用人がいる。そいつに今日のことを話したら、ぜひ協力させてほしいとのことや。屋敷の構造とか物資とかは、そいつに全部聞いてやってくれ」
「とても助かります。物資はできるだけ持ってきましたが、長期戦が予想されるので、多くあるに越したことはない」
そんな会話を、大量の人が行きかう京都駅構内で話しているので、周りの人は奇異な目でこちらを見てきている。見た目はただの大学生であるのに、話の内容が非常に物騒なのである。
「それじゃ、そろそろ作戦開始といこか。蝶舞の錫杖を見つけ次第、すぐイチジョウらの元へ向かう。それまでどうか、持ちこたえてくれ」
ナルユメの言葉に迎撃チームの三人はこくりと頷く。
「貴公らもの武運も祈っているぞ」とニノツキが言う。行きかう人々の視線が多くなる。演劇でもやっていると思われたらしい。
「じゃあ久々にあれ、言わせてくれ」
そう言ってナルユメはイチジョウに作戦ナンバーを聞く。「00328です」とイチジョウ。「もうそんな数字になってるんか」と驚くナルユメ。
「よっし。久しぶりやから緊張するな。人も多いし……」
そういってナルユメは咳払いをして一呼吸置いたのち、口を開いた。
「それでは、作戦№00348を開始する……作戦開始」




