宵山作戦
「奥の院伝統の作戦会議っぽく言うと、ロケーションは京都府左京区のある屋敷……。まあ、俺の実家やね」
「ナルユメさんのお家、京都だったのですね。知らなかったわ」とミツメが驚く。
「先輩のお家が、霊障に悩まされている、ということですか」
意外そうに言うイチジョウに、ナルユメは笑って答える。
「まあ、最後まで聞きや。俺の実家、地元ではまあそれなりに名のある地主の家系でな、毎年祇園祭宵山になると……。あ、祇園祭って知ってるかな。七月になったら京都でやるデカい祭りね。その時に実家の屋敷で鎮めの儀式を行う風習があるねん。なんでもその地域、というか俺の実家、宵山になったら封印してた悪霊が出てくるって言い伝えがあってな。俺の家系はそれを封印する役割を持ってたんやと」
ナルユメの話は、イヌマキが奥の院に入部する以前であれば、到底信じられるものではなかっただろう。しかし数多くの悪霊と対峙してきた今、彼の話は嘘とは思えなかった。きっと、比喩ではなく、本当に悪霊が出てくるんだろうなと思った。物理的に。
「ほんで今年の宵山も例年通り地鎮祭を行う予定やったんやけどな、現領主である俺の父親が急に倒れたんや。しかも地鎮祭二週間前に。儀式内容は俺が二十五歳になるまで伝授されない決まりやから、現在、地鎮祭を行える者がいないことになる。俺は一人っ子やしね。……ここまで来たら、何となく言いたいことは分かったかな?イヌマキちゃん」
「ええと、私たちが地鎮祭を代わりに行うということですか……」
「流石にそれは無理やな。息子の俺ですら、半端にやることを禁じられてきたからな。それやと恐らく逆効果や。おいイチジョウ、この子中々おもしろいやんか」
そういってナルユメは笑う。イヌマキ自身も、そんな作戦なわけないと思っていたが、急に名指しで聞かれ、思考を放棄して反射的に答えてしまった。
「先輩、まだ一年生ですので、あまりいじめないように」
イチジョウの言葉に、「おっとごめん」と謝りながらも、ナルユメは続ける。
「ただイヌマキちゃんの言ったことが間違ってるわけでもないんよ。まあつまり、現奥の院メンバーには、宵山当日俺の実家に来て、悪霊と対峙してもらおうと思ってる。穏やかに鎮める術がないなら、もう撃退するしかないってな。それに、俺は儀式を受け継ぐつもりなんて元々なかった。なんでこっちが気ぃ使って悪霊を鎮めなあかんのよって、ずっと思ってたからなあ。それで大学は奥の院に入ったってのもある。親父が倒れた、これを機に、俺の家の役割は消失させようと思ってる。俺の子供や孫にまで、迷惑をかけたくない」
「それで、その悪霊退治に、私たちが協力するということですね」
状況を飲み込んだイチジョウが言う。
「そう、そこで君らの出番よ。奥の院の除霊はどんな住職や霊媒師よりも信頼できることは、俺が一番よく知ってる。そうやなあ、作戦名は「宵山作戦」でいこか。つまり作戦第一の目標は、ナルユメ家に出現する悪霊の退治。そして第一と言ったのには理由がある」
そう言ってナルユメはチョークを持ち、教室に設置された黒板に何かを書き込みだす。「どんな漢字やっけ」などとぶつぶつ言いながら書いている。
「宵山大捜査……」
ナルユメが書き終わったのを見て、ミツメが黒板に書かれた文字を読み上げる。
「これが本作戦第二の目的や。お前らには祇園祭宵山にて、あるものを探してもらいたいと思っている。その名も『蝶舞の錫杖』」
「蝶舞の錫杖?」
一同がなんだそれはという様子で復唱する。ナルユメは咳ばらいをしつつ話を続ける。彼曰く、その錫杖は鎮めの儀式にて使用する呪具であるという。「儀式内容もその錫杖も見たことないから、それがどうやって使われていたかは、俺にもようわからんが」
「でも、とてもかわいい名前の呪具ね」
ミツメの言葉に、イヌマキもおおかた同意だった。蝶舞の錫杖。その単語に、イヌマキは子供向けアニメに登場するような魔法少女のステッキを思い浮かべた。厳格な表情の壮年の男が、そのようなステッキを振って悪霊を鎮める……。そんな様子が(そんなわけないと思いながらも)彼女の頭から離れなかった。
「やろ?でも悪霊を鎮める呪具っていうんやから、やばいもんには違いない。で、話を戻すと、その蝶舞の錫杖が、数日前盗まれた。何者かによってな」
「なんと、そんなものを盗むとは。罰当たりな者もいたものだ」
不思議な話には、とことん非現実的なことが起こるのだなと、イヌマキは感心していた。謎の呪具、それを盗む何者か。そんなもの、ファンタジー小説でもありきたりすぎて書かれない。
「親父が倒れたのもその影響かと睨んでる。盗まれた時期と倒れた時期が、ほぼ一致しているからな」
「お父様を守ってくれてたのかしら。そう考えるともっと素敵ね」
「犯人の目的は?」とイチジョウが尋ねる。
「不明」と答えるナルユメ。
「心当たりは?」
「まあ、一応」
「盗まれたという証拠はあるのですか」
余りの情報の少なさに、イチジョウは怪訝な様子で言う。だが次にナルユメが根拠として挙げた理由は、一同をさらなる謎の作戦へと引きずり込むものだった。
体調を崩してしまい。期日通りに投稿することができませんでした。申し訳ございません。




