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鳴夢さん

『宵山作戦』


   七月七日 第二演習室


「皆、急に集まってもらって悪かった。時間も無いから簡潔に伝えよう」


 その日、イチジョウからの連絡で、緊急会議が開かれた。初めて聞くその会議名にイヌマキは身構えたが、他メンバーの様子から見て、そこまで緊迫したものでもないようだった。イチジョウ含め、イヌマキが奥の院メンバーと顔を合わすのは久々であった。四国地方での作戦以降、依頼が来ず、二か月が経ってしまっていた。しかし彼らに再開を久しむ様子はなく、昨日までも普通に会っていたのではと思わせるような様子であった。


「まず一つ目。依頼が入った。近々作戦を行う予定だ」


「久々ね。二か月ぶりくらいかしら」


「この時期に依頼が入るとは……」


 ニノツキ曰く、初夏から夏本番にかけては依頼が少なくなる傾向があるらしい。それは生命力が活発になり始める時期であり、人間と霊の力の均衡は、やや人間に有利となる時でもあるという。


「裏を返せば、そんな時期に人間に干渉してくる奴は、より厄介ということだ」


「なるほど」


 イヌマキはこのサークルに入部してから、強敵ばかりを相手にしている気がしていた。もう少し通常の(霊と対峙することに普通も何もないのは分かっていたが)敵を相手にして、経験を積みたいものだと思っていた。


「しかし、本件は通常の任務、作戦とは異なる」


「どういうこと?」


 ミツメの疑問に、イチジョウは第二演習室の扉を開けながら答える。


「本題は、この人から聞かせてもらおう」


「あ!」


 開かれた扉から入ってきた人物に、イヌマキ以外のメンバーは驚きの声を上げた。イヌマキとは初対面であるその高身長の男は大学生には見えず、イチジョウたちよりも大人に見えた。


「おお、変わらんなこの教室も。元気にしてたか?」


 その男は開口一番、明らかに西を感じさせる口調で言った。それを聞いた奥の院一同が頭を下げる。


「お久しぶりです。“ナルユメ”さん」


 頭を下げながらミツメが言った。イヌマキはその名前から、奥の院に関連する人物であることを理解した。ナルユメ、ハンドルネームだろうか。


「ミツメらぁももう四年生かあ。お、新しい子がいるやない」


 ナルユメと呼ばれる男が、新入生であるイヌマキの存在に気づいて言った。


「はい、今年入部した新入生です。ハンドルネームはイヌマキ」


 扉を閉めながらイチジョウが説明する。それを聞いたナルユメが景気のよさそうに笑う。


「そうかそうか、久々に合格者が出たんか。ほーん、イヌマキちゃんね。俺、奥の院の元リーダーのナルユメって言います。イチジョウとかの二個上で、今は社会人。よろしく」


「よ、よろしくお願いします!」


「イヌマキ君はとても優秀だ。この若さで我々にも引けを取らない」


 二つ上のナルユメにも敬語を使わないニノツキをみて、そういえばこの人は四回留年していたことを思い出す。ナルユメでさえも二つ下なのであった。


「それは良いことや。というか、まだいたんか、ニノツキ」


 そう言われたニノツキは笑い出す。「今年で追い出されるそうだ」。

 それはかなりまずいのでは、とイヌマキは言おうとしたが、焦る感性があればとっくに卒業しているはずなので、そこは慎むことにした。


「で、ヨツツジは相変わらず無口……と。改めてみたらすごい面子やなあ。今の四年生らは。イヌマキちゃん、ちゃんとついていけてるか?」


「はい! 皆さんとても親切で、面白いです」


 慌てて肯定したイヌマキだったが、とんでもない面子というのはおそらくその通りだと思った。


「それで、リーダー、あなたから直接の依頼とは驚きました」


 本題に入ろうとするイチジョウの言葉に、イヌマキは驚く。てっきり協力者としてやってきたと思っていたが、全く違ったようだ。


「『元』リーダーな。その言い方はやめてくれ。それで作戦についてやけど、ちょっと長くなるから、みんなよく聞いてや」


 そう言って奥の院『元』リーダーは話し出す。


 ナルユメが持ち出した作戦。それが底知れぬはかりごとを秘めた激闘になることを、イヌマキたちはまだ知らない。


お疲れ様です!

本日より、第三章の連載を始めます。

第一章、二章と比べるとかなり長丁場になると思われますので、根気よくついてきていただけますとこの上なく嬉しいです。

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