イヌマキの悔恨
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お話の途中なのですがお目汚し失礼します。イヌマキです。この時の私の気持ちを、もう少し詳しく補足する必要があると感じたので、少しだけお時間を……。
私の家族の話をしていませんでしたね。私には兄弟姉妹がおらず、一人っ子でありました。母は優しく、私に愛情をもって接してくれたのですが、問題は父の方でした。父は中学卒業以降、学校には行かずに就職しており、言ってしまえばあまり知性に恵まれているとは言えない男でした。そんな奴だったからか知りませんが、彼は私や母が本を読むことを極端に嫌いました。母は本が好きで、読み終わった本を私に譲ってくれていたのですが、そんなに様子見た父がいつもこう言うのです。『こんなつまらん物を読むな!』と。ただ、それだけなら良かったのです。それだけなら……。
ある日酒を飲んで酔っ払った父は、私が読んでいた本を無理やり奪い取り、煙草に着けた火で燃やしてしまったのです。その感覚が癖になったのかわかりませんが、父は酒を飲むたびに、むしろそれが良い酒の肴であるように、家の本棚から本を抜き出して燃やしていました。気に入らないことがあるとすぐ暴力を行使する父でしたので、私も母も、止めることはできませんでした。
私が高校生になり、母が彼と離婚し、母の実家で暮らすことになった時、家にあった本はすべて灰になっていました。元父の行方は知りません。どこかで死んでいればよいのですが……。好きな時に好きなだけ本が読めるような環境になってからは、あの家であったことはすべて忘れようと努めていました。
それもいい感じだったのですが、先ほどあの男の子に襲われる直前に、色々とフラッシュバックしてしまいました。きっと、方法は違えど本の機能を停止させる行為をとってしまったこと、それをあの子に見せて怒らせてしまったことが原因でしょう。あれほど嫌っていた父と、同じことをしてしまったのですから。
ですが一つ言えるのは、今こんなことで気分を落としても仕方がないということです。というわけでこのことは、いったん頭の片隅に追いやります。こんなことは、作戦が終わってから好きなだけ悩めばよいのです。……はい、今追いやりました。
とにかく、火車を何とかしなければなりません。
長々と失礼しました。
では、また。
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午後五時三分
「改めて、状況を整理する」
イチジョウが小規模なブリーフィングを始めた。
「イヌマキの活躍によって、火車の実体を引き出すことができた。陽掴で攻撃を加えたが、とどめを刺せずに逃げられてしまった。だがイヌマキに襲い掛かっていた様子を見るに、奴は再び襲撃してくるだろう」
「それまでここで待つの?」
ミツメの問いかけに、イチジョウが答える。
「探しに行くのは危険だ。不意打ちの可能性もある。次は確実に仕留められるよう、全員が準備した上で……」
イチジョウが何か異変に気付き、話を止めた。耳を家の外に向けている。
―ズズズズズ、ズズズズズ
イチジョウと同じく耳を澄ませたイヌマキにもはっきりと聞こえた。昨日の深夜、庭から聞こえてきていた音。『神に近い存在』……。ヨツツジがそう称した、この家で最も恐れるべき敵。
「お出ましね……」
「……武者震いがするな」
その音は全員の耳に届いているようで、各々が身構える。
「このタイミングで出てくるということは、もしかして……」
イヌマキが思ったことを口にすると、全員が頷いた。
「ああ、奴は火車と何かしら関係があると思われる」
そう言ってイチジョウはしばらく何かを考えこむ。それに察したミツメが言う。
「これは、行くしかないんじゃない?」
しばらく考え込んでいたが、彼女の言葉に、イチジョウは判断をを決心する。
「……作戦変更。これより庭へ向かう。神に近い領域の霊、『落とし神』が呼んでいる。火車も恐らくそこにいるだろう。こうなった以上、迎撃姿勢を取り続けるのは難しい」
そこまで行ったところでイチジョウは一度話をやめる。全員に異論がないかを確認しているようだ。しかし、そこに異を唱える者はいなかった。彼は一度頷き、一段と大きな声で言った。
「恐らくこれが最終戦だ。我々から討ちに行くぞ」
遅くなって申し訳ありませんでした。
毎日投稿が、途切れるところでした。しかし、私が眠りにつくまでは、今日の内と考えているので、お許しください。




