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手紙からはじまる物語 ― 見えない糸でつながる心たち ―  作者: 草花みおん
言葉の残る場所

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最後の手紙

拝啓


桜の花びらが風に舞う季節となりました。


この手紙を書いているのは、あなたがもう読めないことを知っているからです。

でも書かずにはいられません。

言葉にしないと、この胸の中で溢れそうなものが、どこにも行き場がないのです。


ねえ、おばあちゃん。今日ね、あの公園を通ったんだよ。

覚えてる? 私が小さい頃、いつも一緒に歩いた道。

あの時はさ、おばあちゃんの手が、世界で一番大きくて、一番温かくて、一番安心できる場所だった。


あなたが教えてくださったこと、今になってようやくわかります。

「人は誰かの記憶の中で生き続ける」

その時は、子供だった私には難しくて、ただ頷くだけでした。

でも今、わかるんです。


朝、コーヒーを淹れる時。

おばあちゃんが「ゆっくり、丁寧にね」って言ってた声が聞こえる。

雨の日に傘を差す時。

「濡れたら風邪ひくからね」って、いつも心配してくれたよね。

夜、空を見上げる時。

「星はね、遠くにいる人を繋いでくれるのよ」って、教えてくれた。


あの日のこと、覚えていますか。

私が交通事故に遭った時。

必死の形相で走ってきてくれましたね。

あんなに早く走れるんだって、驚きました。

息を切らして、涙を流して、私の名前を何度も呼んでくれた。

「大丈夫? 大丈夫なの?」って。


今でも覚えてるよ、おばあちゃん。

あの時の、おばあちゃんの震える手。

私を抱きしめてくれた時の、温かさ。

心配かけてごめんね。

でもあの時、わかったんだ。

こんなに愛されてるんだって。


そしてもう一つ、どうしても謝りたいことがあります。

あなたが認知症になって、少しずつ私のことがわからなくなっていった時。

私は、優しくできませんでした。

イライラして、冷たい言葉を投げつけて。

同じことを何度も聞かれるたびに、ため息をついて。


あんなにひどい扱いして、ごめんね。

おばあちゃんが一番辛かったのに。

一番怖かったのに。

私、何してたんだろう。

あの時の自分を、今でも許せない。


ありがとう、とお伝えしたくて。

そして、ごめんなさい、と謝りたくて。


もっと優しくすればよかった。

もっと話を聞けばよかった。

もっと「ありがとう」を言えばよかった。

もっと、あなたの手を握っていればよかった。


後悔ばかりです。

でも、あなたは私に、こんなにたくさんの愛をくれました。


今日もね、誰かに優しくできたよ。

困ってるおばあさんに、荷物を持ってあげた。

その人の「ありがとう」って言う笑顔がさ、なんだかあなたに似てて。

泣きそうになっちゃった。

でも、嬉しかったんだ。

おばあちゃんがくれた優しさを、私も誰かに渡せたんだって。


ねえ、おばあちゃん。

今、私には二人の子どもがいるんだよ。

毎日、幸せに暮らしてる。

おばあちゃんが生きてた時に、会わせてあげたかったな。

きっと、目尻を下げて笑ってくれたよね。


子どもたちにね、話してるんだ。

「ひいおばあちゃんはね、とっても優しい人だったんだよ」って。

「困ってる人がいたら、必ず手を差し伸べる人だったんだよ」って。

「あなたたちを、空の上から見守ってくれてるんだよ」って。


おばあちゃんの生きた証を、子どもたちに伝えていくね。

あなたがくれた愛を、私が受け取って、そして次の世代へ。

そうやって、おばあちゃんはずっと生き続けるんだ。

私たちの心の中で、血の中で、笑顔の中で。


敬具

あなたが愛してくれた孫より


追伸


桜、今年も綺麗に咲きました。

あなたが一番好きだった、あの薄紅色の花びら。

風に乗って、どこか遠くのあなたのところまで届いているといいな。


私はここで、あなたがくれた優しさを大切に生きていきます。

見守っていてください。


ありがとう、おばあちゃん。

大好きだよ。

ずっと、ずっと。

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