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異世界解放最前線:幻想遠征録  作者: 一番鬼
ロングソードと軍事作戦
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背水の侵略者

パイロットと司令部…

西暦2106年5月10日 地球標準時11:25 アルシア王都上空:爆撃機B-99ストームクロウ、コックピット


アルシア王国は、炎と煙に覆われていた。かつての白亜の王宮や緑の森は見る影もなく、爆撃機B-99ストームクロウの編隊が投下した爆弾が王都を瓦礫の海に変えた。

 灰色の機体が低く唸り、排気の熱が大気を歪める。コックピットの中は、赤い照明に照らされ、計器盤の緑と赤の光が点滅している。空調の冷気が吹き出し、汗と緊張で湿った空気を和らげていた。


パイロットのジェイク・ハートマンは、操縦桿を握り、ヘルメットのバイザーに映るデータを睨んでいた。29歳、短く刈った黒髪と鋭い灰色の瞳を持つ彼は、フリース連合国空軍第三爆撃航空隊のエースだ。

 だが、今、彼の手は微かに震え、額に汗が滲んでいる。モニターには、アルシア王国の焼け野原が映し出されている。崩れた王国壁、燃える市場、瓦礫に埋もれた王宮。投下したクラスター爆弾と500kg爆弾が、王都全域を更地に変えた瞬間が、リアルタイムで彼の目に焼き付いていた。


「目標エリアA-1からA-7、破壊率92%。残存構造物は最小限」


無線から流れる僚機の報告が、ジェイクの耳に冷たく響く。彼は喉を鳴らし、応答した。


「了解。次の座標を確認しろ。投下準備を維持」


声は機械的で、感情を押し殺している。だが、彼の頭の中は混乱で渦巻いていた。視界に映る瓦礫の山を見ると、胸が締め付けられるような感覚が襲う。


「これが……俺がやったのか?」


ジェイクの記憶に、遠い過去が蘇る。10歳の頃、彼は田舎の家でスケッチブックを手にしていた。窓の外には、夕陽に染まる丘と、風に揺れる麦畑が広がる。彼は鉛筆を走らせ、脳内の幻想的な風景を描いた。竜が舞う空、輝く城、魔法の森――そんな夢の世界を紙に閉じ込めるのが好きだった。

 あの頃の彼は、空を飛ぶなら竜の背に乗りたかった。だが、今、彼が乗るのは鋼の翼だ。


コックピットのモニターが、次の目標エリアを点滅させる。王都の北西、市街から離れ、農地と村々が密集する地域だ。ジェイクの指が投下ボタンに触れ、一瞬ためらう。だが、無線から隊長の声が割り込んだ。


「ハートマン、躊躇うな。命令だ。全機、投下準備を進めろ」


編隊長の声は冷徹で、容赦ない。ジェイクは目を閉じ、深呼吸した。


「了解」


彼の指がボタンを押す。爆弾倉が開き、物体が切り離される音が機体を震わせる。


下を見ると、農地が炎に包まれる。村の木造家屋が吹き飛び、畑が黒い焦土に変わる。ジェイクの胸が締め付けられ、胃が縮こまる感覚が襲う。子供の頃の自分が現れる。スケッチブックを手に笑う少年が、今の彼を睨む。その幻影に、ジェイクは答えられない。彼の手が操縦桿を握り直し、汗がヘルメットに滴る。


爆撃が続く中、彼の視界に王都中の残骸が映った。塔が折れ、瓦礫に埋もれた要塞が見える。


彼の記憶の中の幻想的な風景は、輝きを失わず、竜が守っていた。だが、今、彼が壊した灰と煙に沈む。無線が再び鳴り、僚機が報告する。


「目標エリアB-1、B-2、破壊完了。残存抵抗なし」


機体は止まらず、鋼の翼は冷たく唸り続ける。


―――――――――――――――――――――――

同時刻 地球連合軍司令部:地下司令室


地球連合軍司令部は、アルシア次元のポータルゲートから数百キロ離れた地下施設に位置していた。

 コンクリートの壁に囲まれた作戦室は、無機質な灰色で統一され、蛍光灯の白い光が冷たく照らす。中央には巨大なホログラムテーブルが置かれ、アルシア王国の地図が立体的に投影されている。

 赤い点が爆撃エリアを示し、緑の線が地上部隊の進路を刻む。部屋の空気は重く、タバコの煙とコーヒーの匂いが混じる。数十人の将校が忙しく動き回り、無線機の音とキーボードの打鍵音が響き合っていた。


司令官グリッド・パワーズは、ホログラムテーブルに凭れ、地図を見つめていた。50代後半、短く刈った白髪と鋭い青い目を持つ彼は、地球資源確保プロトコルの立案者だ。

 黒い軍服に金色の階級章が輝き、胸ポケットから葉巻が覗く。彼の顔は無表情で、深い皺が長年の戦いの重みを物語る。


「爆撃の成果はどうだ?」

彼の声は低く、抑揚がない。隣に立つ参謀、ジョン・ロビンソンがタブレットを手に報告した。


「エリアA-1からB-5までの破壊率、平均93%。王都は完全制圧。国土の役6割が更地化しました」


グリッドは葉巻を取り出し、ライターで火をつけた。煙が細く立ち上り、彼の視線は地図の赤い点に固定されている。


「6割か。まずまずだな。残存勢力は?」

ジョンがデータを確認し、答えた。


「抵抗はほぼ壊滅。王宮周辺に僅かな生存者反応がありますが、組織的活動は皆無です」


グリッドは頷き、煙を吐いた。


「良し。資源地帯は確保済みだ。魔力鉱石の採掘は予定通り進められる」


彼の声に感情はなく、冷徹な計算だけが響く。


作戦室の壁に設置された大型モニターに、爆撃の映像が映し出された。B-99ストームクロウのカメラが捉えた、王都の崩壊シーンだ。崩れた王国壁、燃える市場、瓦礫に埋もれた王宮。炎と煙が立ち上り、かつての美しい街が灰に変わる。


将校の一人が呟いた。

「見事な仕事ですね。異世界の連中、抵抗する気力も残ってないでしょう」


グリッドはモニターを見上げ、薄く笑った。

「見事かどうかは、資源の収穫量で決まる。この程度の破壊は、計画の一部に過ぎない」


彼の言葉に、将校たちが静かに頷く。


グリッドの頭に、地球の現状が浮かぶ。資源枯渇、人口過多、エネルギー危機。2100年代の地球は、生存のために異世界を侵すしかなかった。彼の手元にある報告書には、アルシアの占領で、最低でも都市1年分の電力、2万トンの希少鉱石、数十回の艦隊遠征分の石油が賄えると記されている。


「これがなければ、我々が死ぬ。」


彼は内心で呟き、葉巻を灰皿に押し付けた。アルシアの民の犠牲は、彼にとって数字に過ぎない。だが、その冷酷さの裏で、微かな疲労が彼の肩を重くしていた。


「地上部隊の準備はどうだ?」


グリッドが問うと、ジョンが即答した。


「全部隊、ポータルゲート待機中。出撃準備が完了しています」


グリッドは地図に手を置き、緑の線を指でなぞった。

「よし。地上部隊に攻撃を命令しろ。王都残存エリアを制圧し、資源地帯の完全確保を急げ。抵抗があれば、容赦なく潰せ」


彼の声は冷たく、作戦室に響き渡る。参謀が無線に命令を伝え、将校たちが一斉に動き出した。


「地上部隊へ。攻撃開始。目標:アルシア王国。制圧優先」


ホログラムテーブルに、新たな赤い点が広がる。地上部隊の進軍が始まり、アルシアの瓦礫の海に新たな波が押し寄せる。総司令が葉巻を再び咥え、モニターを見上げた。


「これで終わりじゃない。次の異世界が待ってる」


彼の呟きが、冷たい作戦室に静かに溶けた。

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