表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界解放最前線:幻想遠征録  作者: 一番鬼
ロングソードと軍事作戦
5/15

アルシア大空襲

午前9時、空を覆う鋼の影が太陽を遮り、低く重い轟音が大気を震わせる。王国壁の守備隊は戦闘態勢を整え、角笛が響き渡る中、衛兵たちが弓を構え、投石機に石を運び込んでいた。市場は静まり返り、民衆は屋内に退避し、息を殺して空を見上げていた。王宮の玉座の間では、国王レオニスが戒厳令を発し、魔導兵に防御魔法の総動員を命じたばかりだ。だが、その決意が試される瞬間が、すぐそこに迫っていた。


王国壁の東塔に立つドゴランは、長剣を握り、空を見上げていた。革鎧が汗で重く、彼の瞳には恐怖と決意が交錯している。


「何か来る……必ず来る。」

彼の呟きが風に消える中、東の空に浮かぶ影の群れから、一本の細長い物体が切り離された。尾部から白い煙を引くそれは、ドラゴンライダーを墜としたものと同じだった。


 彼の胸が締め付けられ、彼は叫んだ。衛兵たちが一斉に動き、弓兵が矢をつがえ、魔導兵が呪文を唱え始めた。壁の防御紋様が青く輝き、魔法の障壁が薄く展開する。


それはアルシア王室の紋章が象られたものであり、準備不足の中で出来る王国最大の防御だった。


だが、次の瞬間、爆音が王国壁を貫いた。物体は驚異的な速度で壁面に直撃し、衝撃波が石を砕き、炎が舞い上がった。壁が一瞬にして崩れ、巨大な石塊が宙を舞い、衛兵たちを押し潰す。


 ドゴランは塔の縁にしがみつき、耳を劈く轟音に耐えた。


「何だ……何だこれは!?」


彼の叫びが爆風に掻き消され、目の前で壁が崩壊する。弓兵達がいた位置は瓦礫に埋まり、魔法の障壁は一瞬で消え、防御紋様が砕けた石と共に散った。


崩れた壁を悠々と越え、鋼の影の群れが王都全域に到達した。その数は数百、いや千を超えるかもしれない。異形の存在たちは、空を埋め尽くし、王都の隅々まで覆い尽くす勢いだった。轟音が倍増し、地面が震え、民衆の屋内からも悲鳴が漏れ始めた。

 市場の商人は、店の奥に隠れていたが、窓から見える光景に息を呑んだ。木製の扉が震え、埃が舞う中、空は鋼の群れで黒く染まっている。


彼の胸に、家族や市場の日々への郷愁が押し寄せ、それが失われる恐怖に変わる。


そして、何時間にも渡る攻撃が始まった。鋼の影の群れから、無数の物体が切り離され、王都全域に降り注いだ。爆音が連続し、炎と煙が空を染める。王国壁の残骸がさらに砕け、市場の屋根が吹き飛び、石畳が熔けたように崩れる。


 商人が隠れた店は一瞬で瓦礫に変わり、悲鳴が爆風に飲み込まれた。


侍女と衛兵がいた展望台は、爆発の衝撃で傾き、ガラスが砕けて二人が床に倒れた。


老魔術師は広場で杖を振り上げたが、炎の雨に呑まれ、その姿が煙に隠された。


王国中の基地からドラゴンライダーが発進したが、そのほとんどが飛び立つ前に、行われたクラスター爆撃で粉塵に帰した。


生き残った僅かなドラゴンライダーが散発的な攻撃を行なったものの、護衛戦闘機を突破できずに撃墜された。


太陽が少し傾くほどの時間で、アルシア王国空軍は事実上消滅したのである。


王宮の玉座の間では、国王レオニスが窓辺に立ち、崩れゆく王都を見ていた。塔が揺れ、天井のモザイクが砕け落ちる。

 廷臣たちが悲鳴を上げ、衛兵が玉座を守ろうと駆け回る。レオニスは金の王冠を握り、赤いマントが埃に汚れるのも構わず、外を見つめた。

 

彼の声は震え、長い治世で築いたすべてが崩壊する現実が胸を刺す。窓の外では、鋼の影が王宮の上空を覆い、轟音が石壁を震わせる。爆発の光が彼の顔を照らし、瞳に涙が滲んだ。彼の頭に、市場の笑顔、王女の声、衛兵の忠誠が浮かび、それが失われる絶望が心を支配する。


空襲は止まることなく続いた。王都の外に広がる森まで燃え上がり、農地が灰に変わる。爆発の衝撃波が平原を駆け抜け、遠くの村々まで届いた。

 鋼の影は容赦なく物体を投下し、アルシア王国の国土を焼き尽くす。

 市場、王宮、住宅、すべてが更地となり、煙と炎が空を覆った。レオニスは玉座に戻り、崩れかけた背もたれに倒れた。廷臣の一人が叫んだ。


「陛下! 避難を!」


だが、彼は首を振った。

「王は王国と共に在る。」


彼の声は静かで、決意と諦めが混じる。だが、彼の決意はただの死の決意では無い、選ばれた王として、肉体を捧げてでも神の力を借りて、奴らに一発入れてやろうという決意である。


勝算があるかもしれない、彼は自分の命は諦めても、王国を諦めたわけではない。


空襲が収まる頃、アルシア王国の国土の約6割が更地と化していた。王都は瓦礫の山となり、王国壁は跡形もなく、王宮の尖塔さえ折れていた。かつての緑の森は黒い焦土に変わり、川は灰で埋まり、農地は焼け野原と化した。生き残った民は恐怖に震え、煙の中を彷徨う影がちらほら見える。


午前12時、王国には、不自然なほど被害を受けなかった王城と鉱脈に、何も無い平原だけが残っていた。

次回:地球側の視点です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ