青い空
聖剣作戦(せいけんさくせん、英語:Operation Excalibur)は地球資源戦争において地球連合軍がアルシア王国に対して行った軍事作戦。
戦争:地球資源戦争
年月日:2106年5月10日
場所:アルシア王国
結果:データ削除済み
交戦勢力
フリース連合国 アルシア王国
ミクア連邦 ギルドアルシア支部
朝日皇国
大グレートランド帝国
指導者・指揮官
グリッド・パワーズ 二一代目アルシア国王
ジョン・ロビンソン マリエス・ドゴラン
フーパー・ロズブローク
アンゲイ・ロヴォルフ
山茂雅光
木戸兼義
カートル・ウォールヒン
ハリー・マルラーズ
戦力
地球連合軍 アルシア王国軍
開戦時 全体7万7000人
兵力65万人
装甲車18万両 正規軍
戦車9万両 軽装歩兵6万人
戦闘機510機 重装歩兵5000人
爆撃機1200機 魔導兵8500人
出撃58万人 竜騎兵2000騎
冒険者ギルド
カッパー級冒険者1000人
シルバー級冒険者400人
ゴールド級冒険者100人
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帝暦1539年 アルシア王国 上空
初夏の朝、風が吹く中、王国の空は青く澄み渡り、積み木のような雲が青を舞う。その空を優雅に彩るのは、アリシア王国軍の飛行警邏隊であった。
アリシアの飛行隊は最低十五騎で編成され、全員が飛竜に乗って戦う、空戦に特化した魔法が使える物のみ入隊可能な軍の花形だ。
だが空に適した魔法を使えて、それを活かす優れた技能さえあれば、平民上がりでも容易に隊長格になれる夢のある部隊でもあった。
その飛行警邏隊…ラクス隊も、そんな叩き上げが率いる部隊の一つだ。
隊長のラクスは元々貴族ではなかったが、他人の何十倍の訓練と、努力の自負から裏打ちされた技術を持って国を守る無骨にして剛毅な男だ。
そして、彼らが軍馬のように騎乗するドラゴンも、薄暗い赤の鱗に魔術の刻印がなされた鉄防具を纏い、騎手と共に、太陽のように上空から不法や争乱を見張っている。
だが、なぜ花形の彼らが国内の治安維持を任務としているのか。
その理由は王国の現状にあった。王国軍には約七万人が所属しているが、王国が運河に守られていたこともあって長い間その総力を発揮する事はなかった。
そのため、今の王国軍は殆ど軍とは名ばかりの地球の警察のような役割を担っていたのである。
今日も彼らラクス隊にとっては平常時と変わらない警邏任務のはずであった。
揉め事があれば仲介し、食い逃げでもあれば空から鷹の狩りのように捕らえる。それまではただ、優雅に飛ぶだけだ。
無限を思わせる空から見下ろしているバザールでは多くの人々…行商人や、鍛冶屋に冒険者達が行き交い、まだ陽光が高く輝いているにも関わらず、いくつかの灯りが灯されていた。
魚売りの太い声が響き、焼けた魚の香ばしい匂いが風に混じる。果物商の少女が籠に並べた赤い実を客に差し出し、通りでは騎士の甲冑が擦れる金属音が鳴っている。
飽きない風景だ、ラクス隊は既に何万回もこの通りを往来しており、全ての店の位置はもちろんのこと、衣料品店の品揃えから、記念銅像のサビの数まで鮮明に覚えている。
少なくとも彼らには、それはいい飽和であった。
「今日もいい天気だな」
隊長ラクスはそう呟く。十数人を超える部下への言葉か、相棒のドラゴンへの問いかけなのか。彼自身、誰に向けた言葉のか分かっていないが、その曖昧さは、寧ろ素敵な事なのだろう。
突然、彼の視界に異変が訪れた。遠くの空に、何かの黒点を見つけたのだ。
最初は自分の目を疑ったが、周りを飛ぶ部下が目を擦っているのを見て、錯覚の可能性をすぐに棄てた。
今日何かの祭事があるとは聞いていない。もしそんな話があれば、真っ先に自分に命令が来るはずだ。
ほんの僅か、幾許の思索の後には、その黒点の数は数百を超え、さらに王国に接近していた。
「全騎、警戒体制に入れ」
数十年間も形骸化していた古い号令を出す。だがそれを茶化す者は一人としていなかった。
不思議と、この状況の中で冷静さを保っている部下をラクス自身は密かな誇りを覚えていた。
巨木に守られているような、ある種の無敵感と僅かな安堵に囲まれながら策を練っていたが、その安心感を砕くように、部下の一人の顔が突然青ざめる。
「隊長、あれは…」
部下の額には汗が滲み、雨に打たれながらスープを求める聖母のように手綱を揺らしていた。緊張が彼のドラゴンに伝わったのか、威嚇するような、虚勢を張るような咆哮が青空に響く。
眉を顰めながら思考に影が迫る。
彼らは王都の治安を見張る為の訓練を受けている選ばれた優秀な王国隊だ。
だが、その卓越性が却って恐怖を掻き立てたのかもしれない。 その部下は隊で最も遠視魔法が得意な男で、王国の端から端まで視る眼力を持っていた。
隊長ですら王都の一区画先を視るのが限界であるにもかかわらず、である。
要は、最も遠くが見える優れたドラゴンライダーが真っ先に撤退を提言したのだ。
それだけでもラクス隊の多くに恐怖を抱かせるには十分だった。
何が見えたのかは分からない。だが少し神話の英雄に憧れていたラクスにも、部下が見た存在を王室に報せる事が最善の策だと思えた。
気づけばドラゴン達の生存本能は暴れていて、咆哮がラクスを取り囲む。
…妙な音が聞こえる、絶叫に紛れて。混雑した狭い通路をネズミが難なく通り抜けるような音だ。